1.令和5年予備商法。問われている論点はいずれも基本論点といってよいもので、それなりに勉強している人であれば、どれも知っていたはず。民法とは対照的です。当サイトとしても、改めて詳しく解説する必要を感じません。ただ、論点の数が多いので、時間内にまとめるのは容易でない。問われているのが基本論点だけに、書き負けると、簡単に差を付けられてしまうでしょう。その意味では、決して簡単な問題とはいえないのです。このような問題は、自分の弱点を知るのに、とても役に立ちます。
2.本問で、問われている論点を知らなかったとすれば、それは知識不足です。単純に勉強量が足りない。どの論点も、ひと通り過去問、問題集を解いていれば、何度か目にする論点です。その時は書けなくても、復習と記憶喚起のプロセスを通じて、頭の中に入っていくはずのものです(具体的には、「答案を書くことで覚える範囲がわかる」、「ガチ暗記する方法」の各記事を参照)。このタイプの人は、単純に勉強量を増やして問題を解きまくり、復習と記憶喚起のプロセスを通じて知識を増やしていけば、自然と成績も伸びていきます。
3.問われている論点はどれも知っていたのに、問題文から抽出できなかったとすれば、それは論点抽出能力不足です。勉強量はそれなりだけど、方向性がおかしい。このタイプの多くは、「基本書グルグル」とか、「論証集グルグル」のような、ただ教材を読むだけのインプットを主体に勉強しています。インプット教材で目にしていて論点は知っているけれど、事例問題から抽出する訓練をしていないので、抽出できない。このタイプの人は、ただ教材を読むだけの学習をやめて、事例問題を解きまくる方法に変えると、一気に成績が伸びたりします。このとき、「答案構成だけでもオッケー」かどうかは、その人の筆力によります。時間内に余裕で全論点拾うことができ、必要な事実を全部拾って余裕で当てはめできる、というのであれば、答案構成だけでもよいかもしれません。しかし、当サイトのみるところ、ほとんどの受験生は、筆力が不足しています。一部の例外を除いて、意識して鍛えないと、筆力不足を補えない。なので、よほど自分の筆力に確信がない限りは、答案構成だけでなく、実際に答案まで書くべきです。何度か時間を測って答案を書いてみて、毎回4頁びっしり書いて時間が余る、というのであれば、答案構成だけでも足りるかもしれません。
4.問われている論点はどれも知っていたし、問題文から抽出することもできていたのに、規範の明示や事実の摘示をせずに、「~が問題となるも本件では~なので肯定すべきである。」のように雑に触れるにとどまったため、低い成績になったとすれば、それは答案スタイルに問題があります。このタイプの人は、「論点はコンパクトに触れる程度で良い。」という信念を持っている人が多く、容易に答案スタイルを変えようとしない。とても「受かりにくい人」です。当サイトで繰り返し説明しているとおり、現在の論文式試験では、規範と事実に異常な配点があるので、この答案スタイルを維持している限りは、まず受かりません(「令和5年予備試験口述試験(最終)結果について(3)」)。当サイトでは、平成27年以降、規範の明示と事実の摘示に特化した参考答案を掲載していますので、これを参考にして、思い切って答案スタイルを変える必要があります。
5.問われている論点はどれも知っていたし、問題文から抽出することもできていて、規範の明示と事実の摘示を意識していたのに、時間内に書き切ることができなかったとすれば、それは筆力不足です。答案構成メインで勉強していると、こうなりやすい。実際に時間内に答案にまとめる訓練をしていないのだから、当然でしょう。このような人は、文字を書く速度を意識して、時間を測って答案を書きまくるべきです。意識してみると、文字を書く速度が、様々な要素に依存していることに気が付くでしょう。文字の丁寧さ、漢字にするかひらがなにするか、使うボールペンの種類、手を止めて考える時間の有無……等々、色々なことが、書く速さに影響している。逆にいえば、改善できる要素が多い、ということでもあります。自分で改善できる部分を見つけて、答案を書くたびに、できそうなところから意識的にやってみる。人によっては、速度を倍くらいにできることもあります。例えば、今までは1頁書くのに20分くらい掛かっていた人が、1頁10分で書けるようになる。予備論文の試験時間は70分ですから、1頁20分だと、10分答案構成して3頁が精一杯。それが、1頁10分で書けるようになると、30分ゆっくり構成を考えても、4頁びっしり書けてしまう。こうかは ばつぐんです。文字を速く書けるようになるというのは、実質的には試験時間を延長してもらっているのに等しいわけですから、知識・理解のレベルが何も変わらなくても、劇的に成績が伸びるのです。これは笑いが止まりません。それなのに、意外とこれをやる人は少ない。ほとんどの人が、この点を軽視しているからです。論文式試験の成績が、知識・理解のレベルによって決まると、素朴に勘違いしている。だから、知識・理解のレベルを上げることしか考えない。そのような発想からは、「文字を書く速さを倍にしてやろう。」なんて思い付かないというわけですね。そして、このことが「若手優遇策」として機能しているのでした(「令和5年司法試験の結果について(13)」)。