1.前回の記事(「設問1小問(1)の解法~前編~(令和6年司法試験論文式公法系第2問)」)の続きです。関係法令を上から順番に見て、法効果に関係あるやつを激しくピックアップする作業の途中でした。今回は、法71条から見ていきます。
(問題文より引用。太字強調は筆者。) 【資料 関係法令】 (中略) (権利変換を希望しない旨の申出等) 2、3 (略) 4 第1項の期間経過後6月以内に第83条の規定による権利変換計画の縦覧の開始(中略)がされないときは、当該6月の期間経過後30日以内に、第1項(中略)の規定による申出を撤回し、又は新たに第1項(中略)の規定による申出をすることができる。(以下略 5 事業計画を変更して従前の施行地区外の土地を新たに施行地区に編入した場合においては、前項前段中「第1項の期間経過後6月以内に第83条の規定による権利変換計画の縦覧の開始(中略)がされないときは、当該6月の期間経過後」とあるのは、「新たな施行地区の編入に係る事業計画の変更の公告又はその変更の認可の公告があつたときは、その公告があつた日から起算して」とする。 (引用終わり) |
法71条1項は、「第19条第1項の規定による公告(中略)があつたときは」となっていて、法38条2項において準用する場合を含む旨の文言もないので、法19条1項の組合設立認可の公告についてしか適用がありません。「準用する場合を含む旨の文言って何?」という人のために、会社法423条の例を挙げておきましょう。ちょっと見覚えがあることでしょう。
(参照条文)会社法 423条(役員等の株式会社に対する損害賠償責任) 取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人(以下この章において「役員等」という。)は、その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。 2 取締役又は執行役が第356条第1項(第419条第2項において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)の規定に違反して第356条第1項第1号の取引をしたときは、当該取引によって取締役、執行役又は第三者が得た利益の額は、前項の損害の額と推定する。 3 第356条第1項第2号又は第3号(これらの規定を第419条第2項において準用する場合を含む。)の取引によって株式会社に損害が生じたときは、次に掲げる取締役又は執行役は、その任務を怠ったものと推定する。 一 第356条第1項(第419条第2項において準用する場合を含む。)の取締役又は執行役 4 (略)
419条(執行役の監査委員に対する報告義務等) 執行役は、指名委員会等設置会社に著しい損害を及ぼすおそれのある事実を発見したときは、直ちに、当該事実を監査委員に報告しなければならない。 2 第355条、第356条及び第365条第2項の規定は、執行役について準用する。この場合において、第356条第1項中「株主総会」とあるのは「取締役会」と、第365条第2項中「取締役会設置会社においては、第356条第1項各号」とあるのは「第356条第1項各号」と読み替えるものとする。 3 (略) |
そういうわけで、法71条1項は、事業計画変更認可の公告には適用がない。法71条4項は、「第1項の期間経過後6月以内に第83条の規定による権利変換計画の縦覧の開始(中略)がされないときは」となっていて、「第1項の期間経過後~」という時点で第1項の適用のない事業計画変更認可とは関係がない。じゃあ、法71条5項はどうなの?ということで見ると、「事業計画を変更して従前の施行地区外の土地を新たに施行地区に編入した場合においては」とあって、バッチコーンですね!それで、その後を読むと、「前項前段中「第1項の期間経過後6月以内に第83条の規定による権利変換計画の縦覧の開始(中略)がされないときは、当該6月の期間経過後」とあるのは、「新たな施行地区の編入に係る事業計画の変更の公告又はその変更の認可の公告があつたときは、その公告があつた日から起算して」とする。」と書いてあるので、落ち着いて、そのとおりに置き換えて読んでみる。そうすると、以下のようになるはずです。
【法71条5項による同条4項前段の読替え】 法71条5項 ……(略)……前項前段中「第1項の期間経過後6月以内に第83条の規定による権利変換計画の縦覧の開始(中略)がされないときは、当該6月の期間経過後」とあるのは、「新たな施行地区の編入に係る事業計画の変更の公告又はその変更の認可の公告があつたときは、その公告があつた日から起算して」とする。 (読替え前の同条4項前段) (読替え後の同条4項前段) |
同条4項前段の「第1項(中略)の規定による申出」とは、「施行者に対し、(中略)権利の変換を希望せず、自己の有する宅地、借地権若しくは建築物に代えて金銭の給付を希望し、又は自己の有する建築物を施行地区外に移転すべき旨」の申出を指します。条文見出しの略称を用いれば、「権利変換を希望しない旨の申出等」ということですね。より省略したいなら、「権利変換不希望申出等」という表現も可能でしょう。
(問題文より引用。太字強調は筆者。) 【資料 関係法令】 (中略) (権利変換を希望しない旨の申出等) (引用終わり) |
要するに、事業計画変更認可公告から30日以内(※1)に権利変換不希望申出等をするかどうか選択できるよ、ということですね。「これって法効果なの?」というのは、知識がないと悩ましいところで、「宅地所有者等に選択の機会を与えているだけだから、処分性を基礎付ける法効果じゃなさそう。」という感じでスルーしてしまってもやむを得ないでしょう。当サイト作成の参考答案(その1)でこの点に触れていないのは、その趣旨です。もっとも、きちんと判例を勉強している人なら、「これも法的地位への直接的な影響の1つだよね。」と判断できたでしょう。
※1 厳密には、「あった日から起算して」という文言なので、公告がされた初日が参入されるわけですが、試験現場では、そんなこまけーことは気にしてちゃダメです。
(第2種市街地再開発事業計画決定事件判例より引用。太字強調は筆者。) 再開発事業計画の決定は、その公告の日から、土地収用法上の事業の認定と同一の法律効果を生ずるものであるから(同法26条4項)、市町村は、右決定の公告により、同法に基づく収用権限を取得するとともに、その結果として、施行地区内の土地の所有者等は、特段の事情のない限り、自己の所有地等が収用されるべき地位に立たされることとなる。しかも、この場合、都市再開発法上、施行地区内の宅地の所有者等は、契約又は収用により施行者(市町村)に取得される当該宅地等につき、公告があった日から起算して30日以内に、その対償の払渡しを受けることとするか又はこれに代えて建築施設の部分の譲受け希望の申出をするかの選択を余儀なくされるのである(同法118条の2第1項1号)。 (引用終わり) |
上記判例を本問に引き直せば、事業計画変更認可によって、権利変換を受け入れるか、権利変換不希望申出等をするか、その選択を余儀なくされるよね。それって、施行地区内の宅地所有者等の法的地位に対する直接的な影響だよね。だったら、「施行地区内の宅地の所有者等の権利義務又は法的地位に対して有する法的効果」を基礎付ける要素になるから、答案に書き写すべきだよね。そんな感じで、答案に書くべきことを判断することは可能でした。
(参考答案(その2)より引用。太字強調は筆者。)
一般処分における相手方の地位に及ぼす影響については、後続の個別処分を受けるべき地位に立たされるかを考慮する(第2種市街地再開発事業計画決定事件、浜松市事件各判例参照)。これに準じて、後続処分に代わる選択を迫られる地位や、後続処分で付与される権利が縮小する等の不利益を受ける地位に立たされるかも考慮する。 (引用終わり) |
上記判例の知識があって、かつ、時間内に答案に書き切れる猛者はほとんどいないでしょうから、こんなの書けなくても余裕で合格レベルでしょう。なお、この点については、当サイト作成の『司法試験定義趣旨論証集行政法【第2版】』をマニアックに使っていて、「権利変換に関する選択の強制」というキーワードがおぼろげながら浮かんできた人もいたかもしれません。
(『司法試験定義趣旨論証集行政法【第2版】』より引用。太字強調は筆者。※注は原文による。) ・処分の変更に係る処分性の判断方法 (引用終わり) |
上記の部分を斜め読みしつつ、「ふーん、しかし、『権利変換に関する選択の強制』ってなんじゃらほいな。」という感じで何となく記憶に残っていた人(※2)は、「ああこのことか。」と気が付いて、新たな施行地区の編入を伴う場合には、上記東京地判平20・12・25とは逆に、「権利変換に関する選択の強制」が新たに生ずる法効果ということになるよね、とちょっとだけ自信を持って書くことができたかもしれません。
※2 当サイト作成の定義趣旨論証集は、単に合格するというだけならAランクだけ覚えれば十分で、BCランクは読み飛ばしてよいのですが、読み飛ばしながらスワイプしている間にも、一応は視界に入ってきます。覚えようと思わなくても、漠然と脳内を通過する。そうすると、試験現場で、「おぼろげながら浮かんできたんです。『◯◯』というキーワードが。」ということがあるかもしれませんし、そうでなくても、「そういえば、論点名は思い出せないけど、こんな感じの論点があって、確かあの条文が貼ってあったな。」というおぼろげな記憶が浮かんできて、それを頼りに条文を引いたら現場思考できた、ということもあるでしょう。上位を狙わないなら、BCランクは無理して覚える必要はないのですが、「ふーん。こんなんあるんだ。」という感じで眺めておけば、上記のようなサブリミナル効果に近い成果を得ることができる場合もあるでしょう。
2.次は、法72条です。
(問題文より引用。太字強調は筆者。) 【資料 関係法令】 (中略) (権利変換計画の決定及び認可) 2~5 (略) (引用終わり) |
「前条の規定による手続」というのは、先にみた権利変換不希望申出等の手続を指しています。
ここまで条文を順に見てきたところで、どうやら事業計画変更認可の法効果のメインは、新たに編入される施行地区の宅地所有者等が権利変換処分を受けるべき地位に立たされることっぽいな、ということは感じ取ってきているでしょう。その感覚から、「遅滞なく……受けなければならない。」というところが、「事業計画変更認可がされたが最後、それ以降はベルトコンベアみたいに権利変換処分まで行っちゃうよね。」という方向の要素となることが分かるでしょう。書き写す対象として印を付けておく。
(浜松市事件判例より引用。太字強調は筆者。) ……(略)……。そして,土地区画整理事業の事業計画については,いったんその決定がされると,特段の事情のない限り,その事業計画に定められたところに従って具体的な事業がそのまま進められ,その後の手続として,施行地区内の宅地について換地処分が当然に行われることになる。……(略)……。 (引用終わり) |
3.次は法83条。これは、Dが本件権利変換処分を争うきっかけになった手続に関するもので、多分、設問2で使うんだろう。事業計画変更認可の効果としては使わないかな、という感じですね。
(問題文より引用) 【資料 関係法令】 (中略) (権利変換計画の縦覧等) 2~5 (略) (引用終わり) |
4.そして、法86条。
(問題文より引用) 【資料 関係法令】 (中略) (権利変換の処分) 2 権利変換に関する処分は、前項の通知をすることによつて行なう。 3 (略) (引用終わり) |
これも、「遅滞なく……しなければならない。」というところが、「事業計画変更認可がされたが最後、それ以降はベルトコンベアみたいに権利変換処分まで行っちゃうよね。」という方向の要素となることが分かるでしょう。法72条1項、法86条1項を順に読むと、事業計画変更認可→権利変換不希望申出等期間→権利変換計画決定→権利変換計画認可→権利変換処分の通知という感じで遅滞なくどんどん進んでいくでござる。答案には、最低限、これを書き写す。条文の文言を全部そのまま書き写すのはさすがにキツイので、書き写す際には、「遅滞なく」のところを中心に簡潔に摘記する。「遅滞なく」をきちんと書き写すことで、趣旨が伝わります。
(参考答案(その1)より引用) 事業計画変更認可公告から権利変換不希望申出等期間(法71条4項、5項)経過後に遅滞なく権利変換計画認可がされる(法72条1項)。権利変換計画認可後、遅滞なく権利変換処分がされる(法86条1項、2項)。 (引用終わり) |
書き写すだけじゃ物足りないと思ったなら、判例の言い回しを評価として書くとよいでしょう。
(参考答案(その2)より引用) 事業計画変更認可公告から権利変換不希望申出等期間経過後に遅滞なく権利変換計画認可がされる(法72条1項)。権利変換計画認可後、遅滞なく権利変換処分がされる(法86条1項、2項)。……(略)……。したがって、事業計画変更認可がされると、特段の事情のない限り、当然に、変更された事業計画に従った権利変換処分が行われるといえる。 (引用終わり) |
5.さて、ここまでで都市再開発法は終わりですが、その後も条文を見ていきます。上から順番に全部見る。よく、「ああああ施行令とか施行規則なんてあったんだああああああー。(
゚Д゚)ポゥ!」とか試験終了後に叫ぶ人がいますが、淡々と上から全部チェックしていればそんなことにはなんないです。方法論を確立させましょう。
そんなわけで、次の都市再開発法施行令を見ると、これはさすがに小問(2)で使うやつなので、処分性には関係なさそう、と秒で判断して読み飛ばします。
(問題文より引用) 【資料 関係法令】 (中略) ○ 都市再開発法施行令(昭和44年政令第232号)(抜粋) (縦覧手続等を要しない事業計画等の変更) 一 都市計画の変更に伴う設計の概要の変更 2、3 (略) (引用終わり) |
6.関係法令の最後に、都市再開発法施行規則が鎮座しておられる。11条の一箇条しかないので、これをありがたく拝読します。そうすると、法38条2項で準用される19条1項の公告の内容を定めるものだ、ということがわかります。
(問題文より引用) 【資料 関係法令】 (中略) ○ 都市再開発法施行規則(昭和44年建設省令第54号)(抜粋) (組合施行に関する公告事項) 2 (略) 3 法第38条第2項において準用する法第19条第1項(中略)の国土交通省令で定める事項は、次に掲げるものとする。 一 (略) (引用終わり) |
事業計画変更認可の公告については、法効果に関係あるものとして、書き写すことが確定していました(「設問1小問(1)の解法~前編~(令和6年司法試験論文式公法系第2問)」)。3項2号は、新たに編入される施行地区が公告されることを意味しているので、「事業計画変更認可がされることにより、新たに編入される施行地区の宅地所有者等は自らの宅地が権利変換の対象となることを予測可能になる。」ということが、より明確になります。これも書き写しですね、と印を付けておく。そして、同項5号の方も、権利変換を受け入れるか、不希望申出等をするかの選択を迫られるという話をする際に、添えるように摘示しておくとよさそうなので、その旨の印を付けておく。
これで、「【資料 関係法令】」のところは全部チェックが終わりました。
(後編に続きます。)