令和6年司法試験の結果について(11)
~選択科目別最低ライン未満者割合~

1.以下は、直近5年の選択科目別の最低ライン未満者割合、すなわち、その科目を選択して短答に合格した者に占めるその科目で最低ライン未満となった者の割合の推移です。

令和2 令和3 令和4 令和5 令和6
倒産 2.39% 1.91% 2.52% 3.99% 3.03%
租税 0.49% 2.81% 2.46% 1.71% 2.17%
経済 4.25% 2.00% 3.58% 3.30% 0.92%
知財 3.30% 5.12% 6.59% 5.99% 1.66%
労働 3.20% 0.48% 3.16% 3.63% 2.48%
環境 0.87% 4.90% 0.00% 0.00% 0.00%
国公 3.03% 2.85% 6.06% 9.52% 0.00%
国私 2.11% 0.78% 2.51% 2.39% 1.48%

 かつては、倒産法で最低ライン未満者が多いというのが、確立した傾向でした。短答・論文の合格率が最も高い傾向を示す倒産法で、最低ライン未満者が多数出ていることは、ある意味不思議な現象でした。当サイトでは、実力者が倒産法を選択しているという傾向がある一方で、倒産法の採点は厳しく、素点で最低ライン未満になる危険性が高いことから、倒産法を選択するということには、そのようなリスクがある、という説明をしていたのでした(「平成26年司法試験の結果について(10)」)。一方で、労働法は、かつては毎年最低ライン未満者が少なく、その意味では安全な科目であると説明をしていたのでした。
 それが、最近では、年ごとに最低ライン未満者の多い科目が変動するようになってきました。今年は、突出して最低ライン未満者割合の高い科目はなく、3%程度の倒産法が最も高い数字となっています。総じて、平和な年だったといえるでしょう。もっとも、来年も平和とは限らない。現時点では、どの科目で最低ライン未満者が多く出るかは予測が難しく、最低ライン未満になるリスクを考慮して選択科目を選ぶという考え方は、適切ではないといえるでしょう。ただ、知的財産法に関しては、直近の最低ライン未満者割合が高い傾向にあるので、若干の注意が必要です。なお、国際公法で高い数字になっている年がありますが、これは母数となる受験者数が極端に少ないことによる異常値と考えるべきでしょう。

.選択科目ごとの素点の傾向をみてみましょう。以前の記事(「令和6年司法試験の結果について(9)」)でみたとおり、厳しめな採点がされやすい要注意の科目かどうかは、素点段階と得点調整後に最低ライン未満の得点となる者の数を比較すれば、ある程度わかります。以下は、素点段階の最低ライン未満者数と、得点調整後に最低ライン未満の得点となる者の数をまとめたものです。

素点
ベース
調整後
ベース
倒産 14 19
租税
経済 28
知財 19
労働 22 47
環境
国公
国私

 すべての科目で、調整後の数字の方が大きくなっています。その意味では、特に採点傾向等について気にすることは何もない。上記1のとおり、今年は、平和な年だったといえるでしょう。昨年は、知的財産法で調整後の数字の方が顕著に小さくなっており、近時はやや要注意ではある(「令和5年司法試験の結果について(11)」)ものの、それを除けば、採点傾向を考慮して選択科目を選ぶ必要はほとんどないといえるでしょう。

3.上記のとおり、現時点では、選択した科目によって最低ライン未満となるリスクが高まったり、採点が厳しくなりやすい、という傾向は、あまりみられなくなりました。基本的には、自分の興味のある科目を選択すればよいと思います。学部やローで講義を受講できるかどうかも1つの要素ですが、特にこだわりがなければ、選択者の多い科目を選んでおくのが無難かもしれません。
 以下は、今年の選択科目別受験者数及びその全体に占める割合をまとめたものです。

受験者数 割合
倒産 566 15.1%
租税 199 5.3%
経済 789 21.1%
知財 552 14.7%
労働 1072 28.6%
環境 124 3.3%
国公 71 1.9%
国私 373 10.0%

 労働法が圧倒的に多く、3割近い受験生が選択しています。それ以外では、倒産法、経済法、知的財産法、国際私法が1割から2割の間の水準です。租税法、環境法は1割を下回るマイナー科目で、国際公法はその存在意義が疑われかねないほど選択者が少ない科目となっています。
 このような状況からすれば、特に好みがないなら、労働法を選択しておけばよいのかな、と思います。労働法は、選択科目の中でも、当サイトが繰り返し説明している、「規範と事実」のパターンにはまりやすい科目です。司法試験向けの教材が多く、必須科目と比べて論文の書き方に特殊な点がないという点からも、労働法は選択しやすい科目といえるでしょう。ただ、覚えるべき規範の量は、他の科目より少し多めです。
 覚える量が少ない科目としては、経済法国際私法が挙げられることが多いですが、それは必ずしも楽な科目であるということを意味しない点に注意が必要です。知識量で差が付きにくいということは、現場での事務処理の比重が上がるということを意味します。ちょっとした論点落ちや、当てはめの事実の抽出不足が致命的になりやすいという意味では、逆にリスクが高いともいえるでしょう。どちらの科目も、ややクセのある思考方法が必要だったりするので、的確な事例処理をするためには、相応の演習時間を確保する必要もあります(逆に、そのクセを体得すれば安定するともいえますが。)。その意味では、必ずしも勉強時間を確保しなくて大丈夫、というわけでもないのです。
 かつて、労働法より人気があったのが、倒産法でした。法科大学院で履修しやすい科目であったこと、民事系科目との親和性が強いことが要因だったのでしょう。しかし、以前の記事(「令和6年司法試験の結果について(10)」)で説明したとおり、倒産法は実力者が選択する傾向があるために、得点調整で不利になりやすいことや、かつて最低ライン未満者が毎年多かったこともあって、一時期は敬遠されがちな科目となっていました。もっとも、最近では、最低ライン未満者数もかつてほど多くはなくなってきています。倒産法は教材もそれなりに充実していて学習しやすいという面があり、また受験者が増えてくる可能性はありそうです。
 知的財産法もそれなりに人気がありますが、受験上の優位性というより、興味関心から選択者を集めているようです。また、知財に詳しい社会人受験生の選択も一定数ありそうです。それだけに、きちんと学習している人が多い印象で、他の科目より選択者のレベルがやや高いという印象です。

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