1.以下は、今年の受験生のうち、法科大学院修了生の資格で受験した者の各修了年度別、未修・既修別の合格率です。
受験者数 | 合格者数 | 受験者 合格率 |
|
23未修 | 636 | 52 | 8.1% |
23既修 | 342 | 42 | 12.2% |
24未修 | 613 | 55 | 8.9% |
24既修 | 361 | 59 | 16.3% |
25未修 | 637 | 75 | 11.7% |
25既修 | 469 | 98 | 20.8% |
26未修 | 747 | 98 | 13.1% |
26既修 | 667 | 202 | 30.2% |
27未修 | 785 | 117 | 14.9% |
27既修 | 1260 | 550 | 43.6% |
毎年の確立した傾向として、以下の2つの法則があります。
ア:同じ年度の修了生については、常に既修が未修より受かりやすい。
イ:既修・未修の中で比較すると、常に年度の新しい者が受かりやすい。
今年も、この法則がきれいに当てはまっています。このように既修・未修、修了年度別の合格率が一定の法則に従うことは、その背後にある司法試験の傾向を理解する上で重要なヒントとなります。
2.アの既修・未修の差について、当サイトでは、かつては主に短答で付く、と説明していました。短答は、単純に知識量で差が付くからです。ただ、近年は、短答だけでなく、論文でも差が付くようになってきています(「平成26年司法試験の結果について(6)」、「平成27年司法試験の結果について(6)」。
今年の短答・論文別の既修・未修別合格率はまだ公表されていません。そこで、昨年のデータ(「平成27年司法試験受験状況」)を参考に参照すると、以下のようになっています。短答は受験者ベース、論文は短答合格者ベースの数字です。
平成27年 | ||
短答 合格率 |
論文 合格率 |
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既修 | 79.52% | 40.64% |
未修 | 52.89% | 23.85% |
短答・論文の双方で、大きく差が付いています。論文でも差が付くようになった原因は、論文の得点分布に生じている二極化の傾向(「平成28年司法試験の結果について(5)」)と共通の原因ではないか。すなわち、論文の試験問題が単純な事例処理型になってきていること、そのような事例処理型の問題が出た場合の合格の条件を知っている人が増えたことにあるのだろうと思います。既修者は、早い段階から、論文用の規範を記憶し、過去問や事例演習系の教材をこなして、確実に論文でも点を取ってくるのに対し、未修者は、短答レベルの知識の習得に時間がかかってしまい、論文用の規範を覚えきれず、過去問等の演習も不足したまま本試験に突入してしまうので、論文でも点が取れない。そういう状況になっているのではないかと思っています。
3.イの修了年度による合格率の差は、専ら論文で付いています。短答は知識があれば点が取れるので、勉強量さえ増やせば、受かりやすくなります。そのため、受験回数が増えれば、短答合格率も上がる。しかし、論文には、「受かりにくい者は、何度受けても受からない」法則があるので、受験回数が増えると、むしろ、合格率が下がってしまうのです(「平成27年司法試験の結果について(12)」)。修了年度が古くなるにつれて、通常は受験回数が増えますから、短答の合格率は上がり、論文の合格率は下がる。ただ、短答合格率の上昇よりも論文合格率の下落の方の影響が上回るため、結果的に、トータルでの合格率は下がってしまうというわけです。
論文で成立する「受かりにくい者は、何度受けても受からない」法則の原因は何か。最近になって、かなりわかってきました。現在の論文試験は、基本論点について、規範を明示し、問題文の事実を摘示し(書き写し)て書けば、合格できます。しかし、それにはかなりの文字数を書き切る必要がある。体力的に書き切る力がなかったり、速く書くという意識がない人は、そもそも必要な文字数を物理的に書くことが不可能です。そういう人は、何度受けても受からない。また、一定以上の筆力があっても、当てはめの前に規範を明示するクセの付いていない人は、何度受けても規範を明示せずにいきなり当てはめに入るので、何度受けても受からない。規範を明示するクセが付いていても、問題文の事実を摘示し(書き写し)て書くクセの付いていない人は、何度受けても問題文の事実を摘示し(書き写し)て書かないので、何度受けても受からない。上記の各要素は、勉強量を増やして知識が豊富になったからといって、なんら改善されるものではありません。だから、受験回数が増えても合格率は上がるどころか、かえって下がってしまうというわけです。2回目以降の受験生は、このことをよく理解して、必要な筆力を身に付けると共に、答案のスタイルを改める必要があるのです。