1.下記は、短答・論文段階の合格者の平均年齢の推移です。
年 (平成) |
短答 合格者 |
短答 前年比 |
論文 合格者 |
論文 前年比 |
短答論文 の年齢差 |
18 | 29.92 | --- | 28.87 | --- | 1.05 |
19 | 30.16 | +0.24 | 29.20 | +0.33 | 0.96 |
20 | 30.36 | +0.20 | 28.98 | -0.22 | 1.38 |
21 | 30.4 | +0.04 | 28.84 | -0.14 | 1.56 |
22 | 30.8 | +0.4 | 29.07 | +0.23 | 1.73 |
23 | 30.7 | -0.1 | 28.50 | -0.57 | 2.20 |
24 | 30.9 | +0.2 | 28.54 | +0.04 | 2.36 |
25 | 31.0 | +0.1 | 28.37 | -0.17 | 2.63 |
26 | 31.3 | +0.3 | 28.2 | -0.17 | 3.1 |
27 | 32.2 | +0.9 | 29.1 | +0.9 | 3.1 |
28 | 32.1 | -0.1 | 28.3 | -0.8 | 3.8 |
これまで、短答は緩やかに高齢化、論文は、緩やかに若年化していました。昨年は、短答、論文共に、ほぼ1歳高齢化しました。これまでの傾向からすると、大幅な高齢化です。今年は逆に、短答、論文共に若年化していますが、短答はほぼ横ばいに近いのに対し、論文は昨年の上昇を打ち消すような大幅な若年化となっています。これはどういうことなのでしょうか。
2.まず、短答の方を考えてみます。昨年の大幅な高齢化の原因は、主に受験回数制限の緩和によって、4回目の受験生が参入してきたことにありました(「平成27年司法試験の結果について(11)」)。4回目の受験生というのは、初回受験生より大体3つ年上ですから、そのような人々の参入は、平均年齢を押し上げるわけですね。そのことからすれば、今年は、さらに5回目受験生が初めて参入する年だったわけですから、同様に短答合格者の平均年齢が上がるのが自然なように感じます。ところが、ほぼ横ばいにとどまっている。これは、なぜなのでしょうか。
最大の原因は、今年の5回目受験生の再受験率の低さにあるのでしょう。以前の記事でみたとおり、昨年、4回目の受験をして不合格だった者のうち、今年5回目の受験をしようとした受験予定者は、36.9%に過ぎませんでした(「平成28年司法試験の受験予定者数について」)。そのため、5回目受験生の参入の影響が、限定的なものにとどまったのでしょう。また、4回目受験生の再受験率も、54.7%と、低い水準にとどまっています。短答合格者の平均年齢がほぼ横ばいだったのは、受験回数制限の緩和にもかかわらず、4回目、5回目の受験を自主的に諦めた人が多かったことが原因だ、と考えてよさそうです。
3.次に、論文の方を考えます。ここで、まず注意しておくべきことは、短答と論文の性質の違いです。短答は、単純に勉強量を増やせば、受かりやすくなりますから、受験回数が増えると、合格率も上がります。ですから、4回目、5回目受験生は、短答には異常に強い。そのため、4回目、5回目の受験生が増えると、短答合格者の平均年齢はダイレクトに上昇するのです。一方で、論文は、「受かりにくい人は、何度受けても受からない」法則があります。そのため、受験回数が増えると、むしろ合格率は下がってしまう。したがって、4回目、5回目受験生が参入しても、論文合格者の平均年齢がダイレクトに上がることは、考えにくいのです。
上記を踏まえると、昨年、論文合格者の平均年齢が大幅に上昇したことは、とても意外なことであることがわかります。4回目受験生の参入によって短答合格者の平均年齢が押し上げられても、4回目の受験生はほとんど論文に受からないので、論文合格者の平均年齢は上昇しない、と考えるのが自然だからです。
実際には、昨年の4回目受験生は、確かに3回目受験生より論文合格率は下がったものの、その下げ幅をわずかにとどめていました(「平成27年司法試験の結果について(12)」)。4回目受験生は、短答を81%という圧倒的な合格率で突破し、論文合格率の下げ幅をわずかにして、そのまま逃げ切る形になりました。その結果、4回目受験生は、3回目受験生よりも、高い受験者合格率となったのです。この4回目受験生の健闘が、論文合格者の平均年齢を押し上げたのでした。
もっとも、昨年の4回目受験生は、やや特殊な集団であった、と考えた方がよさそうです。というのは、今年の4回目受験生には、昨年のような健闘は見られないからです。以下は、昨年と今年の、受験回数別の合格率です。現段階では、受験者ベースの数字が公表されていないため、受験予定者ベースの合格率を算出しています。
昨年 | |||
受験回数 | 受験予定者数 | 合格者数 | 受験予定者 合格率 |
1回目 | 3137 | 920 | 29.3% |
2回目 | 2639 | 505 | 19.1% |
3回目 | 2169 | 267 | 12.3% |
4回目 | 1012 | 158 | 15.6% |
今年 | |||
受験回数 | 受験予定者数 | 合格者数 | 受験予定者 合格率 |
1回目 | 2669 | 867 | 32.4% |
2回目 | 1914 | 333 | 17.3% |
3回目 | 1716 | 206 | 12.0% |
4回目 | 1031 | 124 | 12.0% |
5回目 | 314 | 53 | 16.8% |
昨年は、3回目受験生よりも、4回目受験生の合格率が高いのに対し、今年は、3回目受験生と4回目受験生は同じ合格率です。受験回数が増えると合格率が下がるのが普通ですから、ある程度4回目受験生が健闘したとはいえそうですが、昨年ほどの健闘ではありません。
他方、昨年健闘した4回目受験生は、今年は5回目受験生として参入しています。その5回目受験生が、かなりの健闘をみせていることがわかります。3回目、4回目の受験生よりも、高い合格率になっているのです。このように、昨年の4回目、今年の5回目の受験生は、ややイレギュラーな結果を出す集団であるといえるでしょう。もっとも、前記のとおり、5回目の受験を諦めた人が多かったので、最終的な5回目受験生の合格者は、わずか53人しかいません。このため、論文合格者の平均年齢の上昇には、ほとんど寄与しなかったということです。
それともう1つ、論文合格者の若年化の要因と考えられるのが、1回目受験生と2回目受験生の差です。昨年は、1回目と2回目の受験生の合格率の差は、10.2%でした。これに対し、今年は、15.1%に拡大しています。それだけ、初回受験生は受かりやすく、2回目になると受かりにくくなっていた。通常、2回目受験生は、初回受験生より1歳年上ですから、初回受験生が受かりやすくなり、2回目受験生が受かりにくくなるということは、合格者の平均年齢を引き下げる要因となるわけですね。このことは、同時に、「受かりにくい人は、何度受けても受からない」法則が、より強く作用するようになっていることも意味しています。
4.最後に、冒頭の表の右側、短答と論文の平均年齢の差をみておきましょう。一貫して拡大傾向にあることがわかります。これは、短答合格者が論文のセレクションを受けると、必ず若年化し、その若年化の程度が、年々強まっている、ということです。このような現象が生じる原因は、これまでに当サイトが繰り返し説明しているとおり、論文特有の「受かりにくい人は、何度受けても受かりにくい」法則と、加齢による反射神経や筆力の衰えがあります(「平成28年司法試験の結果について(12)」)。短答は、勉強量が多いほうが単純に有利なので、何年も勉強しているベテラン受験生の方が有利です。そのため、短答合格者は高齢化しやすい。それに対し、論文は、規範の明示と事実の摘示というスタイルで書かない「受かりにくい人」は、どんなに法律の知識・理解を深めても、絶望的なほど受からないので、短答で圧倒的な強さを見せたベテラン受験生が、全く受からない。さらに、加齢によって反射神経や筆力が衰えるので、ますます受かりにくくなっていく。そのようなベテラン受験生を尻目に、初回受験の若手が、どんどん受かっていく。このように、論文には、合格者の平均年齢が上がりにくい構造がある。このような短答と論文の構造的な特性の違いによって、短答と論文の合格者の平均年齢に差が生じてくるというわけです。
注意したいのは、この短答と論文の平均年齢の差が、どんどん拡大していっている、ということです。このことは、前記のような短答・論文の特性が、強まっている、ということを意味します。とりわけ気を付ける必要があるのは、論文です。以前の記事でも説明したとおり、最近になって、プレテストや平成18年の頃よりもはるかにシンプルな事例問題となり、また、規範の明示と事実の摘示という答案スタイルで書けば受かるということを知っている人が増えたために、それを知らない人や、わかっていても筆力が足りなくて書き切れない人との差が、どんどん拡大しています(「平成28年司法試験の結果について(5)」)。このことが、短答と論文の平均年齢の差の拡大現象として、表れているのだと考えることができるでしょう。論文における法律の知識・理解の要求水準は、一般に想像されているよりも、はるかに低い水準です。しかし、その反面で、「文字を速く書く力」に対する要求水準は、一般に想像されているよりも、はるかに高い水準、というより、常識で考えて絶対にあり得ないような、常軌を逸した水準です(ただし、考査委員はこのことに気付いていない。)。より具体的に言えば、硬筆書写技能検定試験で最も難しく、師範クラスの人が受験する1級の「速書き」よりも、さらに高度な能力が要求されているのです(「司法試験平成27年採点実感等に関する意見の読み方(行政法)」の「4 採点実感 (1) 全体的印象 第1段落」の項を参照。)
。このことを知らない人が、あまりにも多い。「司法試験」である以上、当然法律の知識、理解で合否が決まるものだ、と思い込んでしまい、まさか、「文字を速く書く力」によって合否が分かれているとは思わないのです。公表されている様々な情報を総合して冷静に考えれば、比較的容易に理解できることではあるのですが、そもそも情報を収集し、冷静に考えようとしている人がほとんどいない。これが、「受かりにくい人は、何度受けても受からない」法則を成立させる大きな要因のうちの1つになっているのです。これらのことは、部分的なデータに基づくものではなく、司法試験の結果に含まれる多種多様なデータが、驚くほど共通して指し示していることです。