平成30年司法試験の結果について(1)

1 平成30年司法試験の結果が公表されました。合格者数は、1525人でした。昨年は1543人でしたから、18人の減少ということになります。ほぼ横ばいといってよいでしょう。

2 この合格者数を見た時、多くの人が、「今年も例の1500人が守られたのか。」と感じたことでしょう。

 

(「法曹養成制度改革の更なる推進について」(平成27年6月30日法曹養成制度改革推進会議決定)より引用。太字強調は筆者。)

 新たに養成し、輩出される法曹の規模は、司法試験合格者数でいえば、質・量ともに豊かな法曹を養成するために導入された現行の法曹養成制度の下でこれまで直近でも1,800人程度の有為な人材が輩出されてきた現状を踏まえ、当面、これより規模が縮小するとしても、1,500人程度は輩出されるよう、必要な取組を進め、更にはこれにとどまることなく、関係者各々が最善を尽くし、社会の法的需要に応えるために、今後もより多くの質の高い法曹が輩出され、活躍する状況になることを目指すべきである。

 (引用終わり)

 

 一昨年が1583人、昨年が1543人で、今年が1525人ですから、ここ3年の間は、同じような感じで1500人強の合格者数になったようにみえます。しかし、今年は、これまでとは意味合いに違いがあります。

3 以下は、これまでの合格者数の推移です。

合格者数
18 1009
19 1851
20 2065
21 2043
22 2074
23 2063
24 2102
25 2049
26 1810
27 1850
28 1583
29 1543
30 1525

 平成20年から平成25年までは、平成24年の例外を除き、すべて「2000人基準」、すなわち、5点刻みで最初に2000人を超える得点を合格点とする、というルールによって、説明できました(「平成26年司法試験の結果について(1)」。平成24年は、「2100人基準」で説明できました。)。
 そして、平成26年及び平成27年は、「1800人基準」、すなわち、5点刻みで最初に1800人を超える得点を合格点とする、というルールによって、説明できたのでした(「平成27年司法試験の結果について(1)」)。
 このように、平成20年から平成27年まで、一貫して、「〇〇人基準」というルールで説明できていました。ところが、平成28年は、1500人強の合格者数だったのに、「1500人基準」では説明できない合格者数でした(「平成28年司法試験の結果について(1)」)。この年は、何らかの理由で、イレギュラーな合格者数の決まり方になっていたのでした。その年のイレギュラーな要因としては、例の漏洩問題の影響で法科大学院の教員が考査委員から外され、実務家が多く考査委員として入っていたことがあり、また、弁護士会は合格者数の大幅な減少を主張していたのでした(「平成30年司法試験の出願者数について(2)」)。そして、平成29年は、「1500人基準」で説明できる合格者数だったのですが、短答の合格率と論文の合格率のバランスが崩れていたことから、当初は1500人強を受からせるつもりはなかったのではないか、短答段階ではもっと少ない合格者数にするはずだったのに、論文合格判定の段階で異論が出て、急遽1500人強になったのではないか、と思わせるような数字だったのでした(「平成29年司法試験の結果について(1)」)。この年は、考査委員に法科大学院教員が戻ってきた年でした(「平成30年司法試験の出願者数について(2)」)。
 このように、平成28年は、「1500人基準」によらなかったという点で、平成29年は、短答と論文の合格率のバランスが崩れていたという点で、それぞれ何らかのイレギュラーな要因があったのだろう、ということが伺われる結果だったのです。

4 さて、以上を踏まえた上で、今年の結果はどうだったのか、みてみましょう。まず、「1500人基準」で説明できるかどうかです。以下は、今年の合格点である805点前後の人員分布です。

得点 累計人員
795 1637
800 1576
805 1525
810 1466
815 1415

 今年は、5点刻みで最初に1500人を超える得点が合格点となっていることがわかります。したがって、今年の結果は、「1500人基準」で説明できます。これが、一昨年との違いです。
 では、短答と論文の合格率のバランスは、どうか。以下は、直近5年の短答、論文の合格率の推移です。短答は受験者ベース、論文は短答合格者ベースの数字を示しています。

短答
合格率
論文
合格率
26 63.3% 35.6%
27 66.2% 34.8%
28 66.9% 34.2%
29 65.9% 39.1%
30 70.0% 41.5%

 昨年は、短答の合格率が前年より下がっているのに、論文合格率は大幅に上昇しています。これは、短答で合格者数を絞っていながら、論文の合格者数を増やしてしまったからです。当初から1500人強を合格させるなら、短答段階で合格者数を絞る必要はなかった。このことが、当初は1500人強を受からせるつもりではなかったのではないか、という疑いを生じさせたのでした。
 今年はというと、短答段階でかなり合格率が上がっています。そのおかげで、論文段階での合格率の上昇が抑えられています。これは、当初から1500人強を合格させることを見越して、短答段階で多めに受からせたことを意味しているのです。これが、昨年との違いです。

5 以上のように、今年は、1500人強の合格者数だったという点では、昨年及び一昨年と同じですが、昨年及び一昨年のようなイレギュラーな要素がなく、いわば粛々と予定の合格者数が出力されたとみられる点で、何らかのイレギュラーな要素があった昨年及び一昨年とはその意味合いが異なる、ということがいえるのです。

6 今年の合格者数については、裁判所の概算要求書の記載を根拠として、「合格者数が1500人を下回ることは確実だ。」とする情報が、ネット上で流布されました。

 

(5ちゃんねる「平成30年司法試験2」より引用。太字強調は筆者。)

400 名前:氏名黙秘[sage] 投稿日:2018/01/20(土) 20:28:56.40 ID:shUFNyao
確実に減るよ

下の資料の司法修習生の費用の項目の「実務修習旅費」の項目は、平成28年度 1年次生、2年次生共に1810人
平成29年度 1年次生、2年次生共に1800人
平成30年度 1年次生1500人、2年次生1600人
と書かれている。歳出概算要求書は、司法修習生の人数をおおよそ決定して予算を要求しているはず。したがって、上の人数は司法修習生の採用予定人数を多めに見積もったものと考えられる。1年次生、2年次生というのは、会計年度が4月スタートなのに対して、修習が12月スタートになるためであろう。すなわち、2年次生が前年度採用の修習生、1年次生が今年度採用予定の修習生を表していると推察される。
ご存知の通り司法試験の合格者数は
平成28年、29年と1500人~1600人の間となっている。そして概算要求書に記載されている数は1800人程度。それが平成30年度は1500人となっている。すなわち、合格者数も200人~300人ほど減少すると考えられる。

裁判所所管
平成30年度歳出概算要求書
http://www.courts.go.jp/vcms_lf/H30gaisanyoukyuusyo.pdf

平成29年度歳出概算要求書
http://www.courts.go.jp/vcms_lf/H280909isaisyutu.pdf

平成28年度歳出概算要求書
http://www.courts.go.jp/vcms_lf/H270911isaisyutu.pdf

(引用終わり)

 

HRKさんのTwitter(2018年6月24日9:37)より引用)

今年司法試験受けた人、手あげて。

はい。君達の中で合格するのは1500人以下です。ソースは最高裁の概算要求。

その人たちは実務修習地への引っ越し準備のクリスマス確定です。本当に幸せなクリスマスを過ごせることが出来るはず。

なぜこんなことになったか、ヒロシは反省して。

(引用終わり)

 

 当サイトでは、当初から、それが誤りであることを指摘していました(「今年の合格者数に関する誤った情報について」)。今回の結果は、そのことを裏付けるものといえるでしょう。

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