1.令和3年予備試験短答式試験の結果が公表されました。合格点は162点。合格者数は2723人。受験者合格率は23.2%でした。
2.以下は、合格点、合格者数等の推移です。
年 | 受験者数 | 短答 合格者数 |
短答 合格率 |
短答 合格点 |
平成23 | 6477 | 1339 | 20.6% | 165 |
平成24 | 7183 | 1711 | 23.8% | 165 |
平成25 | 9224 | 2017 | 21.8% | 170 |
平成26 | 10347 | 2018 | 19.5% | 170 |
平成27 | 10334 | 2294 | 22.1% | 170 |
平成28 | 10442 | 2426 | 23.2% | 165 |
平成29 | 10743 | 2299 | 21.3% | 160 |
平成30 | 11136 | 2612 | 23.4% | 160 |
令和元 | 11780 | 2696 | 22.8% | 162 |
令和2 | 10608 | 2529 | 23.8% | 156 |
令和3 | 11717 | 2723 | 23.2% | 162 |
今年は、出願者数が昨年より1000人程度減ったのに、受験者数は、逆に1000人以上増えています。意外だと思った人もいるかもしれませんが、これは事前に予測できることでした(「令和3年予備試験の出願者数について(2)」)。
一方で、合格者数が2700人強まで増えたことは、予想外のことといえるでしょう。短答合格者数としては、過去最多です。今年は、短答式試験の実施運営に不手際があった旨が公表されています(「令和3年司法試験予備試験短答式試験の実施運営について」)。そのお詫びとして、多めに合格させてくれたのか。そんなはずはありません。どうして、このような結果となったのでしょうか。
3.短答式試験の合格点、合格者数については、その背後にある一定のルールを読み取ることで、傾向の変化やその意味を理解することができます。平成25年から平成29年までは「2000人基準」、すなわち、「5点刻みで、最初に2000人を超えた得点が合格点となる。」というルールで、説明ができました(「平成29年予備試験短答式試験の結果について(1)」)。この時期の合格者数の増減は、意図的なものではなく、全くの偶然だったのでした。平成30年は、それが「2500人基準」へと、変更されたようにみえたのでした(「平成30年予備試験短答式試験の結果について(1)」)。それでも、「5点刻み」というルールは、維持されていたのでした。
それが、令和元年になって、初めて5点刻みではない合格点となりました。それは、5点刻みの「2500人基準」とすると、合格者数が2911人となって、多くなり過ぎるということを考慮したのではないか、と思われたのでした(「令和元年予備試験短答式試験の結果について(1)」)。そして、昨年は、1点刻みの「2500人基準」で説明でき、これは、受験者数が1万人強で推移する状況の下では、合格点前後の1点に100人弱の人員が存在するので、5点刻みだと偶然の事情で500人弱の合格者数の変動が生じてしまいかねないことを踏まえ、1点刻みとすることとしたのではないか、と考えられたのでした(「令和2年予備試験短答式試験の結果について(1)」)。
今年は、どうだったのでしょうか。162点という合格点から、5点刻みでなかったことは明らかです。では、昨年同様の1点刻みの「2500人基準」だったのか。確認してみましょう。以下は、法務省の得点別人員調から、合格点である162点前後の得点の人員数をまとめたものです。
得点 | 人員 | 累計 人員 |
165 | 102 | 2455 |
164 | 91 | 2546 |
163 | 82 | 2628 |
162 | 95 | 2723 |
161 | 88 | 2811 |
160 | 101 | 2912 |
昨年と同じ1点刻みの「2500人基準」であれば、合格点は164点で、合格者数は2546人となったはずでした。2500人強の合格者数を想定していたのであれば、特に問題のない無難な数字です。しかし、実際の合格点は162点。合格者数は2723人でした。「2500人基準」では、説明が付かない数字です。単純に考えると、これは1点刻みの「2700人基準」になった、ということなのでしょう。仮にそうなのであれば、意図的に短答合格者を200人程度増やそうとした、ということになります。
4.仮に、意図的に短答合格者を200人程度増やしたのだ、とすると、それはどのような意味を持つのか。以下は、これまでの論文の受験者数、合格者数及び論文合格率(論文受験者ベース)の推移をまとめたものです。
年 (平成) |
論文 受験者数 |
論文 合格者数 |
論文合格率 |
23 | 1301 | 123 | 9.4% |
24 | 1643 | 233 | 14.1% |
25 | 1932 | 381 | 19.7% |
26 | 1913 | 392 | 20.4% |
27 | 2209 | 428 | 19.3% |
28 | 2327 | 429 | 18.4% |
29 | 2200 | 469 | 21.3% |
30 | 2551 | 459 | 17.9% |
令和元 | 2580 | 494 | 19.1% |
令和2 | 2439 | 464 | 19.0% |
平成25年以降、論文合格率は19%前後で推移していることがわかります。短答合格者数と論文合格者数をバラバラに決めていたら、ここまで安定した数字にはならないでしょう。このことから、論文合格者数を見越して、短答合格者数を調整してきたのだろう、と考えることができます。すなわち、平成25年から平成29年までは、論文合格者数を400人強とすることを見越して、短答合格者数が2000人強となるように、「2000人基準」を採用していた。現に、この時期の論文合格者数は、「400人基準」で説明できたのでした(平成29年は例外で、過渡期の数字だったといえます(「平成29年予備試験論文式試験の結果について(1)」)。)。そして、平成30年から昨年までは、論文合格者数を450人強とすることを見越して、短答合格者数が2500人強となるように、「2500人基準」を採用した。現に、この時期の論文合格者数は、「450人基準」で説明できたのでした(「令和3年予備試験の出願者数について(2)」)。
こうしてみると、今年、「2700人基準」が採用されたとすれば、それは論文合格者数を増加させることを見越したものだろう、という推測が成り立ちます。2700人をベースに論文合格率19%となる論文合格者数を考えると、以下のとおり、500人強という数字が出力されます。
2700×0.19=513
そういうわけで、今年の論文合格者数は、「500人基準」によって決定され、500人強となるのではないか。これが、今回の短答合格者数から読み取れる予測です。