指示説明・現場供述概念の有用性
(令和5年司法試験刑事系第2問)

1.今年の刑訴設問2。各実況見分調書の写真下説明部分については、「指示説明」、「現場供述」の概念を用いて説明した人が多かったことでしょう。しかし、これまでの記事での説明では、「指示説明」や「現場供述」の概念を用いていません。それでも、普通に伝聞証拠か否かを判断することができたのでした(「「供述」の意味を理解する(その1)(令和5年司法試験刑事系第2問)」、「「供述」の意味を理解する(その2)(令和5年司法試験刑事系第2問)」、「「供述」の意味を理解する(その3)(令和5年司法試験刑事系第2問)」)。

2.ある発言を内容とする証拠が伝聞証拠に当たるかについて、「指示説明」の概念を用いて説明する場合、まず、その発言が指示説明に該当することを示し、「指示説明の内容の真実性は問題にならないから伝聞証拠に当たらない。」のような感じで伝聞証拠該当性を否定するのが一般です。しかし、このような説明は論理的でないか、無駄な思考を含んでいます。なぜなら、伝聞証拠に当たらないというためには、供述を内容としていないか、又は、再現されたとおりの事実の存在を要証事実としていないか、そのどちらかを説明すべきで、「指示説明だから」というのは、その答えになっていないからです。「◯◯は~で指示説明であり~で供述を内容とするとはいえないから伝聞証拠でない。」というなら、端的に、「〇〇は~で供述を内容とするとはいえないから伝聞証拠でない。」と説明すればよいわけですし、「◯◯は~で指示説明であり~で再現されたとおりの事実の存在を要証事実としていないから伝聞証拠でない。」というなら、端的に「◯◯は~で再現されたとおりの事実の存在を要証事実としていないから伝聞証拠でない。」といえば足りる。「指示説明」という概念を間に噛ませる必要はないのです。
 同様に、ある発言を内容とする証拠が伝聞証拠に当たるかについて、「現場供述」の概念を用いて説明する場合、まず、その発言が伝聞供述に該当することを示し、「伝聞供述の内容の真実性が問題になるから伝聞証拠に当たる。」のような感じで伝聞証拠該当性を肯定するのが一般です。しかし、これも説明が論理的でないか、無駄な思考を含んでいます。なぜなら、伝聞証拠に当たるというためには、供述を内容とし、かつ、再現されたとおりの事実の存在を要証事実とすることを説明すべきで、「現場供述だから」というのは、その答えになっていないからです。「◯◯は~で現場供述であり~で供述を内容とし、かつ、~で再現されたとおりの事実の存在を要証事実とするから伝聞証拠である。」というなら、端的に、「〇〇は~~で供述を内容とし、かつ、~で再現されたとおりの事実の存在を要証事実とするから伝聞証拠である。」と説明すればよい。「現場供述」という概念を間に噛ませる必要はありません。

3.このように考えてくると、「指示説明」とか「現場供述」なんて最初からいらんかったんや、ということになりそうです。しかし、必ずしもそうではない。「〇〇は~で供述を内容とするとはいえないから伝聞証拠でない。」のような説明は、司法試験の答案としては端的ですが、通常は、そんな説明をするよりも、「それは指示説明だから伝聞証拠じゃないんですね。」という方が簡明です。それに、「指示説明」は、犯罪捜査規範105条1項で用いられている法令用語でもあります。

(参照条文)犯罪捜査規範105条(実況見分調書記載上の注意)

 実況見分調書は、客観的に記載するように努め、被疑者、被害者その他の関係者に対し説明を求めた場合においても、その指示説明の範囲をこえて記載することのないように注意しなければならない。
2 被疑者、被害者その他の関係者の指示説明の範囲をこえて、特にその供述を実況見分調書に記載する必要がある場合には、刑訴法第198条第3項から第5項までおよび同法第223条第2項の規定によらなければならない。この場合において、被疑者の供述に関しては、あらかじめ、自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げ、かつ、その点を調書に明らかにしておかなければならない。

 「現場供述」という用語は直接使われていませんが、同条2項は現場供述に関する規定であることが明らかです。同条を説明する際に、「1項は指示説明について、2項は現場供述について規定したものである。」のような説明をするためにも、「指示説明」、「現場供述」という用語はないと困る。このように、「指示説明」、「現場供述」という用語自体は、あったほうが便利であるといえるでしょう。
 それから、受験テクニックという観点でいうと、「指示説明」、「現場供述」の定義を書いて当てはめる、という形式の方が、頭を使わずに書ける、という利点があります。表面的な論述になるので超上位は狙えないかもしれないけれども、「指示説明」、「現場供述」という言葉は勉強していますよ、というアピールはできるので、「それなりに勉強しているね。」という評価を得ることにはなりやすいでしょう。当サイトの参考答案(その1)は、そのような戦略に基づいています。

(参考答案(その1)より引用)

1.実況見分調書①

 (中略)

(3)甲発言引用部分

 指示説明とは、見分当時においてそのような指示があったことを要証事実とし、その指示の存在から見分の対象を確定し、又は見分の動機を明らかにするものをいう。指示説明は供述により再現されたとおりの事実の存在を要証事実としないから、他の部分と一体として証拠能力が認められる。

ア.「このように、ピッキング用具を鍵穴に入れてこうして動かしていくと解錠できます。」の部分は、その指示があったことを要証事実とし、複数枚添付された写真が甲の解錠状況を連続撮影したものである旨を確定するから、指示説明である。

イ.「このように解錠できました。」の部分は、その指示があったことを要証事実とし、甲が解錠後の錠を指さしている場面の写真が甲の解錠後の状況を撮影したものである旨を確定するから、指示説明である。

ウ.よって、いずれの部分も調書と一体として証拠能力がある。 

2.実況見分調書②

 (中略)

(2)写真部分

ア.現場供述とは、犯行当時において説明どおりの事実が存在したことを要証事実とするものをいう。現場供述は、供述により再現されたとおりの事実の存在を要証事実とするから、320条1項の「書面」に当たる。言語によらない身振りであっても、体験した事実を再現するものである限り、供述といえる。
 同部分の写真は、Sが右手でゴルフクラブのグリップを握り、Vの左側頭部を目掛けて振り下ろしている場面のもので、その下の「このようにして、犯人は、右手に持っていたゴルフクラブで私の左側頭部を殴りました。」との記載から、犯行当時にVが体験した事実を身振りで再現した場面を撮影したもので、写真どおりの犯人の行為が存在したことを要証事実とする。
 したがって、身振りによる現場供述であり、「書面」に当たる。

(引用終わり)

 上記のうち、「指示説明は供述により再現されたとおりの事実の存在を要証事実としないから」というのは、厳密には不正確です。なぜなら、以前の記事(「「供述」の意味を理解する(その2)(令和5年司法試験刑事系第2問)」)で説明したとおり、甲発言引用部分には、そもそも供述でないという理由で伝聞証拠とならないものがあるからです。しかし、細かいことは気にしない。これでも、合格レベルは超えているでしょう。
 最初のうちは、上記のような書き方の方が書きやすいと感じるでしょうが、伝聞法則の処理に慣れてくると、「指示説明」、「現場供述」の概念を用いる方が、かえって論理的に説明しにくいと感じるようになるでしょう。そのようなレベルに至ったなら、敢えて「指示説明」、「現場供述」の概念を用いる必要はないと思います。

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