1.令和6年司法試験の受験予定者が公表されています。受験予定者は、4026人でした。以下は、直近5年の受験予定者数の推移です。昨年から在学中受験が可能となりましたので、それ以前との比較のため、括弧書で在学中受験を除いたものを記載しました。
年 (令和) |
受験予定者数 | 前年比 |
2 | 4100 | -799 |
3 | 3733 | -367 |
4 | 3339 | -394 |
5 | 4165 (3051) |
+826 (-288) |
6 | 4026 (2745) |
-139 (-306) |
一昨年まで、受験予定者は減少傾向を続けていましたが、昨年は、大幅な増加となりました。もっとも、在学中受験を除いた数字でみると減少傾向が継続していることから、これは在学中受験が可能になったことによる一時的な現象だろう、と考えられたのでした(「令和5年司法試験の受験予定者数について(1)」)。なので、翌年以降は、また元に戻るはず。今年は、その予測どおり、従来の減少傾向をそのまま引き継いだような結果となっています。
この減少傾向は、いつまで続くのか。在学中受験の影響を除くと、直近では、毎年300人くらい受験者が減っている状況が続いています。これがそのままずっと続くなら、十数年で受験者がいなくなってしまう。さすがに、そんなはずはない、ということは直感でわかりますが、実際のところはどうなのか、検討してみましょう。
2.そもそも、なぜ、司法試験の受験者は減少を続けているのか。平成の時代には、概ね法科大学院修了生の減少ということで、説明できました(※)。以下は、平成25年度以降の年度別の法科大学院入学定員数・実入学者数及び修了者数の推移です(「法科大学院の志願者数・入学定員数・入学者数・入学定員充足率の推移等」、「法科大学院修了者数の推移」参照)。
※ 他に、予備試験合格者の増減も受験者の増減に影響しますが、ここ数年は大きな増減はありません(「令和5年予備試験口述試験(最終)結果について(1)」)。
年度 | 入学定員 | 前年比 | 実入学者 | 前年比 | 修了者数 | 前年度比 |
平成25 | 4261 | -223 | 2698 | -452 | 3037 | -422 |
平成26 | 3809 | -452 | 2272 | -426 | 2511 | -526 |
平成27 | 3169 | -640 | 2201 | -71 | 2190 | -321 |
平成28 | 2724 | -445 | 1857 | -344 | 1872 | -318 |
平成29 | 2566 | -158 | 1704 | -153 | 1622 | -250 |
平成30 | 2330 | -236 | 1621 | -83 | 1456 | -166 |
令和元 | 2253 | -77 | 1862 | +241 | 1307 | -149 |
令和2 | 2233 | -20 | 1711 | -151 | 1403 | +96 |
令和3 | 2233 | 0 | 1724 | +13 | 1321 | -82 |
令和4 | 2233 | 0 | 1968 | +244 | 1229 | -92 |
令和5 | 2197 | -36 | 1971 | +3 | --- | --- |
これまで、入学定員、実入学者、修了者のいずれもが一貫して減少を続け、司法試験受験者減少の主な要因となっていました。それが、令和の時代になったあたりから、下げ止まりの傾向にあることがわかります。実入学者に関しては、むしろ、増加傾向に転じそうにもみえる。令和5年度修了者の実数は不明ですが、上記の推移をみる限り、大幅に減っているとは考えにくいでしょう。
したがって、直近の受験者の減少に関しては、「法科大学院修了生が減少したからだ。」という説明は難しいのです。
3.直近の受験者減少の主な要因は、司法試験の合格率の上昇にあります。合格率が上昇すると、不合格になって翌年受験しようとする滞留者が減少するので、受験者の減少要因となるのです。実際の数字をみてみましょう。ある年の滞留者については、前年の受験予定者から、前年の合格者数を差し引くことで、概数を求めることができます。ただし、5回目の受験者は翌年に受験することができないので、この数字からは除くことになる。こうして求めた直近5年の滞留者に関する数字をまとめたものが、以下の表です。昨年から在学中受験が可能になったことから、比較のため、括弧書で在学中受験を除いた数字を記載しています。また、前年比(変化率)は、在学中受験を除いた数字を基礎にして算出しました。
年 (令和) |
前年の 受験予定者数 (5回目を除く) |
前年の 合格者数 (5回目を除く) |
前年の 受験予定者ベース の合格率 (5回目を除く) |
前年の 受験予定者数 と合格者数の差 (5回目を除く) |
前年比 (変化率) |
2 | 4445 | 1413 | 31.7% | 3032 | -705 (-18.8%) |
3 | 3703 | 1393 | 37.6% | 2310 | -722 (-23.8%) |
4 | 3429 | 1374 | 40.0% | 2055 | -255 (-11.0%) |
5 | 3111 | 1361 | 43.7% | 1750 | -305 (-14.8%) |
6 | 3974 (2860) |
1766 (1129) |
44.4% (39.4%) |
2208 (1731) |
-19 (-1.0%) |
合格率の上昇に伴い、滞留者(前年の5回目受験者を除く受験予定者数と合格者数の差)が減ってきていることがわかります。高い合格率によって滞留者がどんどんはけて行き、再受験者が減っているというわけです。もっとも、昨年から在学中受験が可能となった影響で、合格者の決定要因が、「〇〇人基準」のような一定の人数ではなく、「短答は80%、論文は60%」のような一定の合格率に変化しているとみえます(「令和5年司法試験の受験予定者数について(2)」、「令和5年司法試験の結果について(1)」)。仮にそうなると、今後は合格率がどんどん上昇していくことにはならない。結果として、滞留者の減少傾向には歯止めが掛かることになるでしょう。今年の数字は在学中受験の一時的な影響で読みにくくなっていますが、来年以降、わかりやすい形で数字に表れるようになってくるでしょう。
4.上記のとおり、これまで存在した受験者の減少要因は、在学中受験をきっかけにして、消滅に向かいつつあるといえます。今後は、しばらく横ばいになりやすいだろう、というのが、当サイトの予測です。