1.令和6年予備試験民法。設問2(2)は、騙取金弁済に関する最判昭49・9・26の規範を明示し、問題文の事実を書き写して当てはめをするだけの問題です(※)。それだけに、規範明示と事実摘示が合否を分ける。とりわけ、差が付くのは、因果関係のところ。受かりにくい人は、平然と以下のように書いて、「今年の民法は簡単でしたねー。完璧です。」などと言って帰って来ます。
※ 本当は、誤振込事例にも同判例の射程が及ぶか、給付利得か侵害利得か等も問題になるのですが、書ける人はほとんどいないでしょうから、合否を分けないでしょう。
【受かりにくい人の答案の例】 Jは、本件誤振込みで振り込まれた500万円をLに弁済したから、Gの損失と社会通念上の連結があり、因果関係が認められる。 |
2.まず、上記のような答案は、規範を明示していない時点で、評価を落とすでしょう。
「社会通念上の連結があり」って書いてあるから規範は明示されている、と思った人は、規範明示の意味を全然理解していない。以下のように書いて初めて、「規範の明示があった。」といえるのです。
(参考答案(その1)より引用。太字強調は筆者。) 直接の因果関係がなくても、社会通念上の連結があれば足りる(騙取金弁済事件判例参照)。 (引用終わり) |
当てはめの前に規範を明示して、それから当てはめをし、冒頭で明示した規範に当てはまることを示す。受かりにくい人は、「そんなの規範を2回書くことになって無駄じゃん。意味ねーよ。」などと言って、これを頑としてやらない。その結果、どんなに知識・理解を深めても、受かりやすくはならないのでした。
3.もう1つ、評価を落とすであろう要因は、問題文の事実を摘示していない、ということです。
【受かりにくい人の答案の例】 Jは、本件誤振込みで振り込まれた500万円をLに弁済したから、Gの損失と社会通念上の連結があり、因果関係が認められる。 |
「Jは、本件誤振込みで振り込まれた500万円をLに弁済した」って書いてるから事実を摘示してるじゃん、と思った人は、事実摘示の意味を全然理解していない。問題文には、「Jは、本件誤振込みで振り込まれた500万円をLに弁済した。」なんて、書いてありません。受かりにくい人は、「いやいや、ここに書いてあるじゃん。」と言って、問題文の以下の箇所を指し示してくる。
(問題文より引用。太字強調は筆者。) 15.令和6年3月8日夜、Jは、債権者の一人である知人Lに対して、現金で500万円の弁済をしていた。Lによると、Jは同日午後8時頃に、突然Lの自宅を訪れ、Lに対して負う債務の弁済が遅れたことをわび、弁済に充ててほしいと現金500万円を置いていった。Lが弁済金の出所を尋ねたところ、Jは、自分の銀行口座に誤って振り込まれた金銭である旨を説明した。Lは迷ったが、結局これをJに対して有する債権の弁済として受け取った。 16.K銀行は、【事実Ⅳ】14のとおり、令和6年3月8日午前10時にJに組戻しの承諾を得るべく連絡をしていたが、K銀行の担当者は、J名義口座について取引を一時的に停止するなどの措置を採ることをしていなかった。同日午後1時、Jは、同口座から現金500万円の払戻しを受けており、それにより同口座の残高は0円となっていた。同口座は、ここ数年間残高は0円であって、本件振込み及びその払戻しを除き、入出金は行われていなかった。 (引用終わり) ※ 細かい話ですが、問題文11では、「本件誤振込み」と定義しているのに、上記16では、「本件振込み」になっています。これは、「本件誤振込み」の誤記でしょう。 |
令和6年3月8日午後1時にJが口座から500万円の払戻しを受けていて、残高がゼロになった。しかも、その口座はずっと残高ゼロ円なんだから、払い戻した金はどうみても本件誤振込みによって振り込まれた500万円だ。同日の夜(Lによると午後8時頃)に、その500万円をLに弁済してるんだから、「Jは、本件誤振込みで振り込まれた500万円をLに弁済した」という評価が可能である。だから、そこだけ答案に書けばいい。受かりにくい人は、そう考えるわけです。
しかし実際には、そのような答案は、点数が伸びません。当サイトの参考答案(その1)のように、事実を書き写す必要があるのです。
(参考答案(その1)より引用。太字強調は筆者。) 直接の因果関係がなくても、社会通念上の連結があれば足りる(騙取金弁済事件判例参照)。 (引用終わり) |
上記のように問題文の事実を書き写した上で、そこから導かれる帰結として、「Jは、本件誤振込みで振り込まれた500万円をLに弁済したと評価できる。」のように論述するなら問題ありませんが、基礎となる問題文の事実の書写しを省略することは、許されないのです。受かりにくい人は、「いやいや問題文から明らかなんだから書き写さなくても考査委員は分かってくれますよ。そんな書き写したりするのメンドイし、頭悪そうだから自分は絶対にやりません。」などと言って、頑としてやらない。その結果、どんなに知識・理解を深めても、受かりやすくはならないのでした。
4.上記のような答案を書く人は、どの科目でも規範明示・事実摘示に関する大きな配点を取れないので、とても受かりにくい。しかも、本人は、そのような書き方を、あたかも自分の人格の核心を形成するものであるかのように大切にしているので、他人からアドバイスされても、「これは俺のやり方、俺の人生そのものなんだ!お前は俺の存在を否定するのか!」という感じで反発し、頑として変えようとしない。このことが、「受かりにくい人は、何度受けても受かりにくい」法則を確固たるものにしています(「令和5年司法試験の結果について(7)」、「令和5年司法試験の結果について(12)」、「令和5年司法試験の結果について(13)」)。
5.規範明示・事実摘示の意味・重要性を理解していても、設問2(2)に行き着くまでに時間が足りなくなっていて、規範明示・事実摘示をこなす余裕がなかった、という人も、相当数いたことでしょう。そのような人は、「たまたま時間不足になっちゃって。」というのではなく、「本試験で確実に時間が足りるようにするためには、どのような方法論によればよいか。」を考えなければなりません。答案構成の時間を減らすか、文字を書く速さを改善するか、その両方か。受験生ごとに、最適な対応策は異なります。普段の演習を通じて試行錯誤を繰り返し、自分にとって最適な方法論を確立すべきでしょう。