1.出願者数から予測できる今年の予備試験の短答・論文の難易度を検討します。
まず、短答受験者数の予測ですが、予備試験の受験率(出願者ベース)から推計できます。以下は、令和元年以降の受験率の推移です。
年 | 出願者数 | 短答 受験者数 |
受験率 |
令和元 | 14494 | 11780 | 81.2% |
令和2 | 15318 | 10608 | 69.2% |
令和3 | 14317 | 11717 | 81.8% |
令和4 | 16145 | 13004 | 80.5% |
令和5 | 16704 | 13372 | 80.0% |
令和6 | 15764 | ??? | ??? |
令和2年は、出願後に新型コロナウイルス感染症の感染拡大が生じ、緊急事態宣言の発出により試験日程が延期される等のイレギュラーがありました。そのために、受験率が大きく低下しています。令和3年は、ある程度状況がわかった上で出願していたので、感染リスクを恐れて受験を回避しようと考える人は、始めから出願をしなかったのでしょう。出願者数が減少する一方で、受験率は例年どおりの81%程度に戻っています。令和2年を除けば、受験率は80~82%程度で安定しているといえるでしょう。そこで、ここでは、受験率を81%と仮定します。そうすると、受験者数は、以下のとおり、12768人と推計できます。
15764人×0.81≒12768人
昨年(13372人)と比較すると、受験者は600人くらい減少するだろう、ということがわかります。
2.次に、短答式試験の合格者数を考えます。近年は、短答合格者数の決定基準は不安定になっています。平成29年までは5点刻みの「2000人基準」(「平成29年予備試験短答式試験の結果について(1)」)、平成30年は5点刻みの「2500人基準」で説明できました(「平成30年予備試験短答式試験の結果について(1)」)。令和元年は、初めて合格点が5点刻みになっていないという、異例の結果で、それは、「2500人基準」とすると、合格者数が2911人となって、多くなり過ぎるということを考慮したのではないか、と思われたのでした(「令和元年予備試験短答式試験の結果について(1)」)。それ以降は、1点刻みの合格点が続きます。令和2年は、1点刻みの「2500人基準」で説明でき、これは受験者数が1万人強で推移する状況の下では、合格点前後の1点に100人弱の人員が存在するので、5点刻みだと偶然の事情で500人弱の合格者数の変動が生じてしまいかねないことを踏まえ、1点刻みとすることとしたのではないかと考えられたのでした(「令和2年予備試験短答式試験の結果について(1)」)。
そして、令和3年は1点刻みの「2700人基準」、一昨年は1点刻みの「2800人基準」で説明でき、これは、短答合格者を意図的に増やそうとしたものと考えられたのでした(「令和3年予備試験短答式試験の結果について(1)」、「令和4年予備試験短答式試験の結果について(1)」)。ところが、昨年は、一転して1点刻みの「2600人基準」で説明できる数字となり、これは、2年連続で短答合格者を増やしてみたものの、結局論文で合格者を増やすに至らなかったことから、「もう短答で増やす必要はない。」という意見が優勢になったのだろうと考えられたのでした(「令和5年予備試験短答式試験の結果について(1)」)。
上記の経緯に加えて、今年は、昨年より出願者が減っているので、短答合格者を増やす方向にはないでしょう。一方で、後記3のとおり、論文は安定した合格者数となっていることからすると、昨年に引き続いてさらに短答合格者を絞ろうという方向にもなさそうです。そこで、今年も1点刻みの「2600人基準」が維持されると想定して、短答合格者数を2650人として試算してみます。そうすると、短答合格率(対受験者)は、以下のとおり、20.7%と推計できます。
2650÷12768≒20.7%
以下は、これまでの短答合格率(対受験者)の推移です。
年 |
短答 合格率 |
平成23 | 20.6% |
平成24 | 23.8% |
平成25 | 21.8% |
平成26 | 19.5% |
平成27 | 22.1% |
平成28 | 23.2% |
平成29 | 21.3% |
平成30 | 23.8% |
令和元 | 22.8% |
令和2 | 23.8% |
令和3 | 23.2% |
令和4 | 21.7% |
令和5 | 20.0% |
令和6 | 20.7%? |
今年の短答式試験の数字の上での難易度は、昨年と同じか、わずかに易しいくらいになりそうだ、ということがわかります。
3.論文はどうか。まずは、論文受験者数を考えます。短答・論文が同一の時期に実施される司法試験と異なり、予備試験は短答・論文が異なる時期に実施されます。そのため、短答に合格しても論文を受験しないという人が、一定数生じることになる。以下は、令和元年以降の短答合格者ベースの論文式試験の受験率の推移です。
年 | 短答 合格者数 |
論文 受験者数 |
論文 受験率 |
令和元 | 2696 | 2580 | 95.6% |
令和2 | 2529 | 2439 | 96.4% |
令和3 | 2723 | 2633 | 96.6% |
令和4 | 2829 | 2695 | 95.2% |
令和5 | 2685 | 2562 | 95.4% |
令和6 | 2650? | ??? | ??? |
概ね、95~97%の間で推移していることがわかります。そこで、今年の受験率を96%と仮定して、論文受験者数を推計すると、以下のとおり、2544人くらいになりそうだということがわかります。
2650×0.96=2544人
次に、論文合格者数の予測です。平成29年以降の論文式試験の合格点及び合格者数は、例外なく、すべて、「5点刻み(※)で、初めて450人を超える得点が合格点となる。」という、「450人基準」で説明することができます(「令和5年予備試験論文式試験の結果について(1)」)。
※ 短答の方が1点刻みになったのに、論文の方では5点刻みを維持しているのは、論文は短答合格者しか受験しないので、合格点付近の人員が1点当たり10人程度となることが多く、5点刻みでも大きなブレが生じにくいからでしょう。
令和3年以降、予備組の司法試験合格率が9割を超える事態が続いています(「令和3年司法試験の結果について(8)」、「令和5年司法試験の結果について(8)」)。このことから、「予備試験合格者を増やすのではないか。」とも考えたくなるところ。令和3年、一昨年は、短答合格者数を意図的に増加させた経緯から、その可能性が高いのではないか、とも思われたのでした。しかし実際には、「450人基準」が堅持されました。昨年は、短答合格者が大幅に減らされたことから、「これは論文も減らされるのではないか。」という懸念が広がりました。しかし実際には、やはり「450人基準」が堅持されたのでした。このことは、「増やす気はないが、減らす気もない。」という司法試験委員会の意思をうかがわせます。そんなわけで、今年も「450人基準」が堅持されるという想定で、試算してみましょう。そうすると、以下のとおり、論文合格率は、それぞれ18.8%と推計できます。
480÷2544≒18.8%
これを、過去の数字と比べてみましょう。
年 (平成) |
論文 受験者数 |
論文 合格者数 |
論文合格率 |
23 | 1301 | 123 | 9.4% |
24 | 1643 | 233 | 14.1% |
25 | 1932 | 381 | 19.7% |
26 | 1913 | 392 | 20.4% |
27 | 2209 | 428 | 19.3% |
28 | 2327 | 429 | 18.4% |
29 | 2200 | 469 | 21.3% |
30 | 2551 | 459 | 17.9% |
令和元 | 2580 | 494 | 19.1% |
令和2 | 2439 | 464 | 19.0% |
令和3 | 2633 | 479 | 18.1% |
令和4 | 2695 | 481 | 17.8% |
令和5 | 2562 | 487 | 19.0% |
令和6 | 2544? | 480? | 18.8%? |
数字の上での難易度は、昨年とほぼ同じと考えておいてよいでしょう。短答合格者数と論文合格者数を昨年と同水準と想定しているので、これは当然のことです。
4.以上、みてきたように、今年の数字の上での難易度は、短答は昨年と同じか、わずかに易しく、論文は昨年とほぼ同じになりそうです。下記は、上記の各試算をまとめて直近5年の比較をしたものです。
年 | 短答 受験者数 |
短答 合格者数 |
短答 合格率 |
論文 受験者数 |
論文 合格者数 |
論文 合格率 |
令和2 | 10608 | 2529 | 23.8% | 2439 | 464 | 19.0% |
令和3 | 11717 | 2723 | 23.2% | 2633 | 479 | 18.1% |
令和4 | 13004 | 2829 | 21.7% | 2695 | 481 | 17.8% |
令和5 | 13372 | 2685 | 20.0% | 2562 | 487 | 19.0% |
令和6 | 12768? | 2650? | 20.7%? | 2544? | 480? | 18.8%? |