1.令和5年予備試験短答式試験の結果が公表されました。合格点は168点。合格者数は、2685人でした。合格点は昨年より9点上昇し、合格者数は昨年より144人減少しています。受験者合格率は、20.0%で、昨年より1.7ポイントの下落となりました。厳しい結果だな、という印象です。
2.以下は、合格点、合格者数等の推移です。
年 | 受験者数 | 短答 合格者数 |
短答 合格率 |
短答 合格点 |
平成23 | 6477 | 1339 | 20.6% | 165 |
平成24 | 7183 | 1711 | 23.8% | 165 |
平成25 | 9224 | 2017 | 21.8% | 170 |
平成26 | 10347 | 2018 | 19.5% | 170 |
平成27 | 10334 | 2294 | 22.1% | 170 |
平成28 | 10442 | 2426 | 23.2% | 165 |
平成29 | 10743 | 2299 | 21.3% | 160 |
平成30 | 11136 | 2612 | 23.4% | 160 |
令和元 | 11780 | 2696 | 22.8% | 162 |
令和2 | 10608 | 2529 | 23.8% | 156 |
令和3 | 11717 | 2723 | 23.2% | 162 |
令和4 | 13004 | 2829 | 21.7% | 159 |
令和5 | 13372 | 2685 | 20.0% | 168 |
短答式試験の合格点、合格者数については、その背後にある一定のルールを読み取ることで、傾向の変化やその意味を理解することができます。平成25年から平成29年までは「2000人基準」、すなわち、「5点刻みで、最初に2000人を超えた得点が合格点となる。」というルールで、説明ができました(「平成29年予備試験短答式試験の結果について(1)」)。この時期の合格者数の増減は、意図的なものではなく、全くの偶然だったのでした。平成30年は、それが「2500人基準」へと、変更されたようにみえたのでした(「平成30年予備試験短答式試験の結果について(1)」)。それでも、「5点刻み」というルールは、維持されていたのでした。
それが、令和元年になって、初めて5点刻みではない合格点となりました。それは、5点刻みの「2500人基準」とすると、合格者数が2911人となって、多くなり過ぎるということを考慮したのではないか、と思われたのでした(「令和元年予備試験短答式試験の結果について(1)」)。そして、令和2年は、1点刻みの「2500人基準」で説明でき、これは、受験者数が1万人強で推移する状況の下では、合格点前後の1点に100人弱の人員が存在するので、5点刻みだと偶然の事情で500人弱の合格者数の変動が生じてしまいかねないことを踏まえ、1点刻みとすることとしたのではないか、と考えられたのでした(「令和2年予備試験短答式試験の結果について(1)」)。
さらに、一昨年は1点刻みの「2700人基準」、昨年は1点刻みの「2800人基準」で説明できる合格者数となり、1点刻みの合格点が維持される一方で、意図的とみられる短答合格者の増加が続いたのでした(「令和3年予備試験短答式試験の結果について(1)」、「令和4年予備試験短答式試験の結果について(1)」)。
今年は、どうだったのでしょうか。168点という合格点から、5点刻みでなかったことは明らかです。一方で、2685人という合格者数からして、「2700人基準」でも、「2800人基準」でも説明が付かない。どうなっているのか。以下は、法務省の得点別人員調から、合格点である168点前後の得点の人員数をまとめたものです。
得点 | 人員 | 累計 人員 |
170 | 90 | 2463 |
169 | 118 | 2581 |
168 | 104 | 2685 |
167 | 118 | 2803 |
166 | 97 | 2900 |
1点刻みの「2600人基準」になった。そう感じさせる人員分布です。昨年と同じ1点刻みの「2800人基準」であれば、合格点は167点で、合格者数は2803人、受験者合格率は20.9%となるはずでした。「2800人基準」を維持しても、合格点は1点下がるだけ。それでも、合格率は昨年(21.7%)より下がるので、「合格させ過ぎている。」という感じもない。特に何の意図もないのであれば、「2800人基準」を維持してよかったのです。しかし実際には、敢えてそれより1点高い168点を合格点とし、合格者を2685人に絞ってきた。これまでとは一転して、意図的に短答合格者数を減少させたといえます。ただ、「意図的に2800人台から2600人台に減少させようとした。」とまではいいにくい。なぜなら、上記分布からわかるとおり、今年は、「合格者が2700人台になる合格点」が存在しないからです。
3.この意図的な短答合格者数の反転減少は、何を意味するか。以下は、これまでの論文の受験者数、合格者数及び論文合格率(論文受験者ベース)の推移をまとめたものです。
年 | 論文 受験者数 |
論文 合格者数 |
論文合格率 |
平成23 | 1301 | 123 | 9.4% |
平成24 | 1643 | 233 | 14.1% |
平成25 | 1932 | 381 | 19.7% |
平成26 | 1913 | 392 | 20.4% |
平成27 | 2209 | 428 | 19.3% |
平成28 | 2327 | 429 | 18.4% |
平成29 | 2200 | 469 | 21.3% |
平成30 | 2551 | 459 | 17.9% |
令和元 | 2580 | 494 | 19.1% |
令和2 | 2439 | 464 | 19.0% |
令和3 | 2633 | 479 | 18.1% |
令和4 | 2695 | 481 | 17.8% |
平成25年から令和2年まで、論文合格率は概ね19%前後で推移してきました。短答合格者数と論文合格者数をバラバラに決めていたら、ここまで安定した数字にはならないでしょう。このことから、論文合格者数を見越して、短答合格者数を調整してきたのだろう、と推測できます。すなわち、平成27年から平成29年までは、論文合格者数を400人強とすることを見越して、短答合格者数が2000人強となるように、「2000人基準」を採用していた。現に、この時期の論文合格者数は、「400人基準」で説明できたのでした(平成29年は例外で、過渡期の数字だったといえます(「平成29年予備試験論文式試験の結果について(1)」)。)。そして、平成30年から令和2年までは、論文合格者数を450人強とすることを見越して、短答合格者数が2500人強となるように、「2500人基準」を採用した。現に、この時期の論文合格者数は、「450人基準」で説明できたのでした(「令和2年予備試験論文式試験の結果について(1)」)。
ところが、一昨年以降、このバランスに異変が生じます。一昨年は、短答で「2700基準」が採用され、意図的に200人程度合格者数を増やしたとみえたのに、論文では「450人基準」が維持され(「令和3年予備試験論文式試験の結果について(1)」)、昨年は、短答で「2800基準」が採用され、さらに意図的な合格者数増となったとみえたのに、論文では、またしても「450人基準」が維持されたのでした(「「令和4年予備試験論文式試験の結果について(1)」)。その結果、論文合格率は、一昨年が18.1%、昨年が17.8%と、下落を続けたのでした。
上記のことから読み取れることは、これまで存在してきた安定性・一貫性のなさです。なにか、イレギュラーなことが起きているのではないか。当サイトは、そこに増員派と慎重派のせめぎ合いを感じます。一昨年と昨年は、短答段階で、「短答でそんなに絞らないで、論文を見てあげましょうよ。優秀な受験生が増えてるかもしれないじゃないですか。」という感じの増員派の意見が優勢となり、短答合格者増を実現した。しかし、論文段階になってみると、「ちょっと多めに受からせて論文を採点してみたけど、やっぱり優秀層は限られてるじゃん。これ以上合格者は増やせないよ。今後は優秀なのは法曹コースで来るし、予備は増やさなくていい。」という慎重派の意見に圧倒されて、結局論文合格者数は増えない。これが2年連続で続いたので、今年は短答段階でも、「もう短答増やしても意味なくね?無駄に論文採点したくないんだけど。」という慎重派の意見が優勢になって、2685人という結果になった。そんな感じなんじゃないかな、というのが、現在の当サイトの見立てです。
4.上記の見立てが仮に正しいとすると、今年の論文合格者が増える、ということは、期待できないでしょう。場合によっては、昨年より減らされる可能性もある。簡単なシミュレーションをしてみましょう。近時の論文の受験率が96%程度である(「令和5年予備試験の出願者数について(2)」)ことから、今年の論文受験者数は、2685×0.96≒2577人と推計できます。これを基礎に、論文合格者数が470人だった場合(昨年同様の「450人基準」を想定)と、420人だった場合(「400人基準」を想定)で論文合格率を算出すると、以下のようになります。
年 | 論文 受験者数 |
論文 合格者数 |
論文合格率 |
令和5 | 2577? | 470? | 18.2%? |
420? | 16.2%? |
仮に、今年も論文で、「450人基準」が維持された場合には、合格率は概ね18%となります。数字の上での難易度は、一昨年(18.1%)、昨年(17.8%)とほぼ同様といえるでしょう。他方、「400人基準」が採用された場合には、合格率は概ね16%まで下がります。これは、平成25年以降では見たことがないような低い水準です。とはいえ、実際の受験対策という観点からは、あまり気にしても意味がない差でしかありません。そのことは、昨年の数字を用いて試算してみるとわかります。仮に、昨年の論文合格率が16.2%だったとすると、合格者数は概ね436人(2695×0.162)となり、得点別人員から想定される合格点は258点となるので、実際の合格点(255点)との差は、3点だということがわかる。予備の論文は10科目あるので、1科目当たりにすると、0.3点の差でしかないのです。これは、再現答案等を比較しても、全然わからない程度の差です。今年受験する方は、過度に不安にならずに、これまでどおりのやり方で、粛々と受験すれば足りると思います。