1.令和6年予備試験短答式試験の結果が公表されました。合格点は165点。合格者数は、2747人でした。合格点は昨年より3点下落し、合格者数は昨年より62人増加しています。受験者合格率は21.8%で、昨年より1.8ポイントの上昇となりました。平成26年に次ぐ厳しさだった昨年から反転し、一昨年くらいの水準に戻った、という感じです。
2.以下は、合格点、合格者数等の推移です。
年 | 受験者数 | 短答 合格者数 |
短答 合格率 |
短答 合格点 |
平成23 | 6477 | 1339 | 20.6% | 165 |
平成24 | 7183 | 1711 | 23.8% | 165 |
平成25 | 9224 | 2017 | 21.8% | 170 |
平成26 | 10347 | 2018 | 19.5% | 170 |
平成27 | 10334 | 2294 | 22.1% | 170 |
平成28 | 10442 | 2426 | 23.2% | 165 |
平成29 | 10743 | 2299 | 21.3% | 160 |
平成30 | 11136 | 2612 | 23.4% | 160 |
令和元 | 11780 | 2696 | 22.8% | 162 |
令和2 | 10608 | 2529 | 23.8% | 156 |
令和3 | 11717 | 2723 | 23.2% | 162 |
令和4 | 13004 | 2829 | 21.7% | 159 |
令和5 | 13372 | 2685 | 20.0% | 168 |
令和6 | 12569 | 2747 | 21.8% | 165 |
短答式試験の合格点、合格者数については、平成25年から平成29年までは「2000人基準」、すなわち、「5点刻みで、最初に2000人を超えた得点が合格点となる。」というルールで、説明ができました(「平成29年予備試験短答式試験の結果について(1)」)。この時期の合格者数の増減は、意図的なものではなく、全くの偶然だったのでした。平成30年は、それが「2500人基準」へと、変更されたようにみえたのでした(「平成30年予備試験短答式試験の結果について(1)」)。それでも、「5点刻み」というルールは、維持されていたのでした。
それが、令和元年になって、初めて5点刻みではない合格点となりました。それは、5点刻みの「2500人基準」とすると、合格者数が2911人となって、多くなり過ぎるということを考慮したのではないか、と思われたのでした(「令和元年予備試験短答式試験の結果について(1)」)。そして、令和2年は、1点刻みの「2500人基準」で説明でき、これは、受験者数が1万人強で推移する状況の下では、合格点前後の1点に100人弱の人員が存在するので、5点刻みだと偶然の事情で500人弱の合格者数の変動が生じてしまいかねないことを踏まえ、1点刻みとすることとしたのではないか、と考えられたのでした(「令和2年予備試験短答式試験の結果について(1)」)。
さらに、令和3年は1点刻みの「2700人基準」、一昨年は1点刻みの「2800人基準」で説明できる合格者数となり、1点刻みの合格点が維持される一方で、意図的とみられる短答合格者の増加が続いたのでした(「令和3年予備試験短答式試験の結果について(1)」、「令和4年予備試験短答式試験の結果について(1)」)。
ところが、昨年は、一転して1点刻みの「2600人基準」で説明できる数字となり、これは、2年連続で短答合格者を増やしてみたものの、結局論文で合格者を増やすに至らなかったことから、「もう短答で増やす必要はない。」という意見が優勢になったのだろうと考えられたのでした(「令和5年予備試験短答式試験の結果について(1)」)。
3.以上の経緯を踏まえて、今年の数字をみてみましょう。まず、合格点が、久しぶりに5点刻みでも説明できる数字になりました。もっとも、5点刻みだと合格者数の変動が大きすぎるという状況に変わりはありません(※)から、これまでの経緯からすれば、これは偶然とみるべきでしょう。1点刻みで決めた結果、たまたま5の倍数の合格点になっただけ、というわけです。
そういうわけで、1点刻みでみた場合に、合格点前後はどんな感じになっているのか。以下は、法務省の得点別人員調から、合格点である165点前後の得点の人員数をまとめたものです。
※ 例えば、合格点の5点上の170点の累計人員は2212人、5点下の160点の累計人員は3232人で、概ね500人の変動が生じてしまいます。
得点 | 累計人員 |
167 | 2506 |
166 | 2626 |
165 | 2747 |
164 | 2833 |
163 | 2944 |
1点刻みで最初に2700人を超える得点が合格点になる、という、「2700人基準」で説明できることがわかります。上記の経緯を理解した上で今年の数字をみると、「なんでまた2700人に増えたの?」という疑問が生じることでしょう。令和2年以降、2500→2700→2800→2600→2700と、毎年基準人数が変動しているわけで、ブレブレにも程がある。しかも、今年に関しては、特に合格者を増やす要素が見当たらない。昨年より受験者は減っているし、昨年の予備組の司法試験合格率は下落している(「令和5年司法試験の結果について(8)」)ので、「法科大学院生と予備合格者の合格率均衡のために予備合格者を増やすべきだ。」という圧力は、むしろ低下しています。「ちょっと意味がわからないよね。」というのが、正直なところです。
ここからは憶測ですが、予備の合格者数に関しては、考査委員間で毎年もめているのでしょう。法科大学院関係の考査委員は、基本的に予備を敵視しているので、「合格者数は減らすべきだ。」と主張し、実務家の考査委員は予備に肯定的な人が多いので、「もっと受からせてあげてもいいのではないか。」と主張する。短答段階だと、「2600も2700も大して変わらないからいいではないか。」のような主張が通りやすく、また、「どうせ論文で絞ればいいから短答は譲歩するか。」という妥協も生じやすい。そうしたこともあって、短答段階では基準人数が毎年ブレているのだろう。今のところ、当サイトはそんな風に考えています。
4.短答がブレブレなのに対し、論文は一貫して「450人基準」で説明できる合格者数が続いています(「令和5年予備試験論文式試験の結果について(1)」)。平成29年以降、一度もブレたことがない。論文は数字が小さいので、「350も450も550も同じだろう。」とはなかなか言いにくいでしょうし、「論文で譲歩したらもう後がない(口述で極端に絞るわけにはいかない。)。」という点で妥協の余地が乏しい。そうしたこともあって、ここは岩盤のように動かないのだろうと思います。そういうわけで、今年も、多分、論文は「450人基準」で説明できる数字になるのでしょう。
そこで、今年の短答合格者2747人を基礎に試算をしてみます。短答合格者の論文受験率は概ね96%です(「令和6年予備試験の出願者数について(2)」)から、論文受験者数は、以下のとおり、2637人と試算できます。
2747人×0.96≒2637人
その上で、論文合格者数480人という想定で論文合格率を試算すると、以下のようになります。
480人÷2637人≒18.2%
論文合格率18.2%とは、どのくらいの水準なのか。過去の数字と比較してみましょう。
年 (平成) |
論文 受験者数 |
論文 合格者数 |
論文合格率 |
23 | 1301 | 123 | 9.4% |
24 | 1643 | 233 | 14.1% |
25 | 1932 | 381 | 19.7% |
26 | 1913 | 392 | 20.4% |
27 | 2209 | 428 | 19.3% |
28 | 2327 | 429 | 18.4% |
29 | 2200 | 469 | 21.3% |
30 | 2551 | 459 | 17.9% |
令和元 | 2580 | 494 | 19.1% |
令和2 | 2439 | 464 | 19.0% |
令和3 | 2633 | 479 | 18.1% |
令和4 | 2695 | 481 | 17.8% |
令和5 | 2562 | 487 | 19.0% |
令和6 | 2637? | 480? | 18.2%? |
数字の上での難易度は、昨年よりはちょっと厳しめで、令和3年とほぼ同じくらい、ということがわかります。とはいえ、体感的にはほとんど例年どおりという感じでしょう。合格答案のイメージは、ほとんど変わらない。そう考えておいてよさそうです。