令和2年司法試験の結果について(1)

1.令和2年司法試験の結果が公表されました。合格者数は、1450人でした。昨年の1502人から52人の減少、ということよりも、「1500人を下回った。」ということが、注目されます。これまで、当サイトも含め、「1500人が合格者数の下限とされている。」という言い方をしてきたからです。

 

(「法曹養成制度改革の更なる推進について」(平成27年6月30日法曹養成制度改革推進会議決定)より引用。太字強調は筆者。)

 新たに養成し、輩出される法曹の規模は、司法試験合格者数でいえば、質・量ともに豊かな法曹を養成するために導入された現行の法曹養成制度の下でこれまで直近でも1,800人程度の有為な人材が輩出されてきた現状を踏まえ、当面、これより規模が縮小するとしても、1,500人程度は輩出されるよう、必要な取組を進め、更にはこれにとどまることなく、関係者各々が最善を尽くし、社会の法的需要に応えるために、今後もより多くの質の高い法曹が輩出され、活躍する状況になることを目指すべきである。

 (引用終わり)

 

 ただ、上記引用を改めて目にして気が付いた人も多いと思いますが、法曹養成制度改革推進会議決定は、「1500人程度」という表現を用いています。そして、今年の1450人というのは、「1500人程度」という文言にぎりぎり入る巧妙な数字です。細かいことを知らない人に対しては、単純に「政府目標がついに破られたぞ!」と思わせる数字である一方で、国会等で追及されても、「法曹養成制度改革推進会議決定におきましては、『1500人程度は輩出』とされておりまして、1450人という数字は、その枠の中に収まっていると考えることができまして、私どもと致しましては、これが同決定の方針に反するとは考えておりません。」などと回答することが可能な数字になっているというわけです。さて、問題は、どうしてこのような微妙な数字になったのだろうか、ということです。

2.以下は、これまでの合格者数の推移です。なお、年号の省略された年の記載は、平成の元号によります。

合格者数
18 1009
19 1851
20 2065
21 2043
22 2074
23 2063
24 2102
25 2049
26 1810
27 1850
28 1583
29 1543
30 1525
令和元 1502
令和2 1450

 平成20年から平成25年までは、平成24年の例外を除き、すべて「2000人基準」、すなわち、5点刻みで最初に2000人を超える得点を合格点とする、というルールによって、説明できました(「平成26年司法試験の結果について(1)」。平成24年は、「2100人基準」で説明できました。)。
 そして、平成26年及び平成27年は、「1800人基準」、すなわち、5点刻みで最初に1800人を超える得点を合格点とする、というルールによって、説明できたのです(「平成27年司法試験の結果について(1)」)。
 このように、平成20年から平成27年まで、一貫して、「〇〇人基準」というルールで説明できていました。ところが、平成28年は、1500人強の合格者数だったにもかかわらず、「1500人基準」では説明できない合格者数だったのです(「平成28年司法試験の結果について(1)」)。この年は、何らかの理由で、イレギュラーな合格者数の決まり方になっていたのでしょう。その年のイレギュラーな要因としては、例の漏洩問題の影響で法科大学院の教員が考査委員から外され、実務家が考査委員の多数を占めていたということがありました。当時、弁護士会は、合格者数の大幅な減少を主張していました(「平成30年司法試験の出願者数について(2)」)。また、元々、実務家考査委員というのは、合格点を下げて合格者数を増やすことには消極的だったのです。

 

司法制度改革審議会集中審議(第1日)議事録より引用。太字強調は筆者。)

藤田耕三(元広島高裁長官)委員 大分前ですけれども、私も司法試験の考査委員をしたことがあるんですが、及落判定会議で議論をしますと、1点、2点下げるとかなり数は増えるんですが、いつも学者の試験委員の方が下げることを主張され、実務家の司法研修所の教官などが下げるのに反対するという図式で毎年同じことをやっていたんです。学者の方は1点、2点下げたところで大したレベルの違いはないとおっしゃる。研修所の方は、無理して下げた期は後々随分手を焼いて大変だったということなんです。 そういう意味で学者が学生を見る目と、実務家が見る目とちょっと違うかなという気もするんです。

(引用終わり)

 

 そして、平成29年は、「1500人基準」で説明できる合格者数だったのですが、短答の合格率と論文の合格率のバランスが崩れていたことから、当初は1500人強を受からせるつもりはなかったのではないか、短答段階ではもっと少ない合格者数にするはずだったのに、論文合格判定の段階で異論が出て、急遽1500人強になったのではないか、と思わせるような数字だったのでした(「平成29年司法試験の結果について(1)」)。この年は、考査委員に法科大学院教員が戻ってきた年でした(「平成30年司法試験の出願者数について(2)」)。
 このように、平成28年は「1500人基準」によらなかったという点で、平成29年は短答と論文の合格率のバランスが崩れていたという点で、それぞれ何らかのイレギュラーな要因があったのだろう、ということが伺われる結果だったのです。
 これに対し、一昨年及び昨年は、「1500人基準」で説明ができただけでなく、短答と論文の合格率のバランスも、均衡が取れていたのでした(「平成30年司法試験の結果について(1)」、「令和元年司法試験の結果について(1)」)。

3.さて、以上を踏まえた上で、今年の結果はどうだったのか、みてみましょう。以下は、今年の合格点である780点前後の人員分布です。

得点 累計人員
790 1387
785 1418
780 1450
775 1485
770 1525

 仮に、一昨年及び昨年と同様の「1500人基準」を適用すると、5点刻みで、最初に1500人を超える得点が合格点となるので、合格点は770点、合格者数は1525人となるところでした。これはこれで、特に違和感はない数字です。ところが、今年は、これとは異なる結果になっている。意図的に「1500人基準」を採らなかったのだろう、と感じさせます。これまで、合格者数の増減があっても、「〇〇人基準」を適用した結果、偶然そうなっただけだ、ということがよくありました。しかし、今回の数字は、偶然の結果ではないことは明らかです。
 では、短答と論文の合格率のバランスは、どうか。以下は、直近5年の短答、論文の合格率の推移です。短答は受験者ベース、論文は短答合格者ベースの数字を示しています。

短答
合格率
論文
合格率
平成
28
66.9% 34.2%
平成
29
65.9% 39.1%
平成
30
70.0% 41.5%
令和
73.6% 45.6%
令和
75.4% 51.9%

 昨年と比較したとき、短答の合格率は1.8ポイントの上昇にとどまるのに対し、論文の合格率は6.3ポイントも上昇しています。短答と論文のバランスが崩れている、と感じさせます。
 当サイトでは、短答の結果が出た段階で、「これは何かおかしい。」という趣旨の記事を書いていました。

 

(「令和2年司法試験短答式試験の結果について(1)」より引用)

2.現在の短答式試験の合格点は、論文の合格者数を踏まえつつ、短答・論文でバランスのよい合格率となるように決められているとみえます(「令和元年司法試験短答式試験の結果について(1)」) 。当サイトでは、今年の出願者数が公表された段階で、いくつかの場合を想定したシミュレーションを行っていました(「令和2年司法試験の出願者数について(2)」)。その際、論文合格者数1500人、1300人、1100人のそれぞれの場合を想定して、バランスのよい数字の組み合わせを試算していました。以下の表は、その当時の試算をまとめたものです。 

受験者数 短答
合格者数
短答
合格率
(対受験者)
論文
合格者数
論文
合格率
(対短答)
論文
合格率
(対受験者)
3803 3043 80.0% 1500 49.2% 39.4%
2800 73.6% 1300 46.4% 34.1%
2510 66.0% 1100 43.8% 28.9%

 実際の合格者数は、2793人でした。これは、上記の表でいえば、論文合格者数1300人を想定した場合の試算に近い数字です。ただ、上記の表は、受験者数3803人という試算が基礎となっています。実際の受験者数は3703人でしたから、このことも考慮する必要があるでしょう。そこで、上記の表の数字のうち、受験者数、短答合格者数を実際の数字に置き換えてみたのが、以下の表です。

受験者数 短答
合格者数
短答
合格率
(対受験者)
論文
合格者数
論文
合格率
(対短答)
論文
合格率
(対受験者)
3703 2793 75.4% 1500? 53.7%? 40.5%?
1300? 46.5%? 35.1%?
1100? 39.3%? 29.7%?

 比較のために、平成28年から昨年までの数字も加えてみましょう。

受験者数 短答
合格者数
短答
合格率
(対受験者)
論文
合格者数
論文
合格率
(対短答)
論文
合格率
(対受験者)
平成28 6899 4621 66.9% 1583 34.2% 22.9%
平成29 5967 3937 65.9% 1543 39.1% 25.8%
平成30 5238 3669 70.0% 1525 41.5% 29.1%
令和元 4466 3287 73.6% 1502 45.6% 33.6%
令和2 3703 2793 75.4% 1500? 53.7%? 40.5%?
1300? 46.5%? 35.1%?
1100? 39.3%? 29.7%?

 このようにしてみたとき、バランスがよいのは、やはり論文合格者数1300人の場合です。1500人では、対短答の論文合格率が高すぎるようにみえる。一方で、1100人まで減らす気はなさそうだ、という感じもするところです。
 他に考えられる仮説としては、短答合格率の上限を75%としているのではないか、というものがあります。これ以上に短答合格率が上がるようでは、試験の意味がなくなってしまいかねない、ということを考えたのではないか、という見立てです(※)。短答合格率に上限を定めると、対短答の論文合格率が上昇することになりますが、1500人合格させてもまだ53.7%ですから、試験の意味を失わせるほどではない。今年、論文合格者数1500人が維持された場合には、この仮説が説得力を持つことになるでしょう。
 ※ 「もともと法科大学院修了生の7~8割を合格させるはずだったのだから、75%を超えたくらいで試験の意味がないというのはおかしいのでは?」と思った人は、その「7~8割」は単年の合格率ではなく、累積合格率を指すこと(「令和元年司法試験の結果について(2)」)を思い出す必要があります。

3.以上のように考えてみると、今年の短答の合格点は、以下の2つの仮説によって説明できそうです。

① 論文合格者数を1300人に減らすことを見越して、バランスのよい合格率となる合格者数となる点数を合格点にした。
② 論文合格者数を1500人とみてバランスのよい合格率を考えると短答合格率が75%を超えてしまうため、短答合格率が75%となる点数を合格点にした。

 個人的には、論文合格者数1500人は維持されそうだ、というところから、①はなさそうだとも感じます(後記4参照)し、一方で、第1回新司法試験(平成18年)の短答合格率が80.5%だったことを踏まえると、②もちょっとどうなのかな、と感じます。感覚的には、どちらもあまりありそうにない実際の論文合格者数をみてみないと、にゃんともいえないところです。

(引用終わり)

 

 ここからは憶測になりますが、今年は、平成28年や平成29年のように、何らかのイレギュラーな要因があったのでしょう。一方で、質の担保という観点から1500人を維持すべきでないという主張があり、もう一方では、いや推進会議決定があるのだからそれを尊重すべきだ、という意見があった。そこで、1500人を下回らせる一方で、ぎりぎり推進会議決定のいう「1500人程度」の枠に収まり得るような数字で両者が妥協した。そんなところなのではないか。これが、現在における当サイトの見立てです。

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